琥珀色の戯言

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人のセックスを笑うな(ネタバレあり)

人のセックスを笑うな

人のセックスを笑うな


 文藝賞受賞作。このタイトルとペンネームの話題ばかりが先行している観もありますが、内容的には、本当にスタンダードな小説です。「年の差恋愛」というのも、そんなにものめずらしいテーマじゃないですしね。とにかく「拍子抜けするくらい、何も起こらない小説」で、「物語の醍醐味」を求める人にはあまりオススメできません。むしろ、思い出の場面を「プロモーションビデオ風」に描いたというか。あの映画「キャシャーン」的と言うと、怒られるかもしれませんけど、「なんだか淡々とした話だなあ…」と読み流していると、ところどころに「ハッ」と息を呑むような表現があるのです。こういうのって、「綿金世代的」なのかもしれない。「蹴りたい背中」も、なんとなくこんな空気が漂っていました。さらさらと読んでいると、ときどきものすごく心に引っかかる文章に襟首をつかまれる。ただ、「書き手の顔が見えない」という点では、綿矢りさほどのインパクトはないかも。巧いんですけどね、文章とか描写とか。
 それに、このタイトルとペンネームにしても、これで僕は読んでみようという気になり、結局通読したわけですから、「成功の範疇」であることは間違いありません。とにかく関心を持ってもらえない限り、読み始めてもらえないかぎり、どうしようもないわけだし。
 「人のセックスを笑うな」というタイトルって、「内容とほとんど関係ない」のですが、考えてみると、20歳くらいの男の自意識過剰を表現するには、とてもよく似合う言葉なのかもしれません。「自分のセックスすら誰かに笑われているのではないか」という自意識。オトナであれば、「他人のセックスを笑える」なんてヤツはほとんどいないというのは、みんなわかっているはずです。そういうのって、客観的にみればどんなカッコいいカップルでも「笑える要素」を持っているはずだから逆に。だからこそ、この「笑うな」という言葉にインパクトを感じるのだし。
 まあね、正直なところ「笑えるようなセックスの話」が出てくるのかな、とちょっと期待していたんですが、そういう点では「期待はずれ」です。どうでもいいことなんですけど。
 「リアリティがない」に関しては、僕はこの作品にリアリティは感じないし、感じる必要もあまりないと思っているのです。「指輪物語」を読みながら「エルフなんているわけねーじゃん」とか言うのと同じで、肌が合わない人がいるのも事実でしょうが、まあ、そういうのもアリにしようかね、というくらいの妥協をしてあげてもいいでしょう。
 僕は部分的に「感心」はしましたが、全然「共感」はできなかったことを付記しておきます。その原因が、「恋愛経験不足」にあるのかどうかは、自分でもよくわかりません。

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