琥珀色の戯言

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東京奇譚集

東京奇譚集

東京奇譚集

当直中に読みました。
僕は村上春樹作品におけるテーマは「喪失と再生」だと考えているのですが(もちろん、その「喪失」と「再生」が描かれる比重は、各作品によって異なります)、とくに阪神淡路の震災体験を経ての村上さんの作品は、なんとなく「社会に対する責任感」みたいなものが伝わってくるのです。もともと村上さんは「個人的体験」を描くことによって、「個人的な共感」を集める作家なのですが、震災体験を契機に、同じ「個人的体験を語ること」でも、「より周りに理解してもらえるように」という意識を感じるのです。そういう意味では、この作品に「神の子どもたちは、みな踊る」の続編的な印象を受けたのは、けっして不思議ではないのだと思うのですが、初期作品を愛するファンにとっては、その「重さ」みたいなものが、ちょっとつまらなく感じられるのではないかな、という気もします。
読んでいて、「ああ、これは正しい村上春樹だ」と安心する一方で、「またこういう話か…」という軽い失望があるのも事実ですし。
でもまあ、僕は登場人物が自分に比較的近い世代だったこともあり、面白く読めました。「日々移動する腎臓のかたちをした石」が、いちばん好きです。ストライク・ツー。

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