- 作者: 森絵都
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/04/26
- メディア: 単行本
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「大人のための、ハートウォーミングストーリー」とか書いてあると、蕁麻疹が出そうになってしまうのですけど、読んでみたらとても心に染みる本でした。本当にハートウォーミングされてしまって悔しい。
こういう、子供の親に対する恨みというか、「親の教育のせいで」という感情みたいなものって、僕にもあるよなあ、と思いながら読みました。自由になろうすればするほど、かえってその足枷から離れられないような閉塞感。
この小説は、いろんなことが起こりそうで、結局、具体的な事象としては、あんまりたいしたことは起こりません。でも、そこが素晴らしいのだと思うし、よりいっそう、作品世界と自分の人生みたいなものをシンクロさせてくれるのでしょう。みんなが劇的に救われるわけではないんだけれども、なんとなくこれでいいのかな、と感じさせられるというか、こういうのって、自分だけじゃなかったのだな、という安心感というか。
しかし、この本を読んであらためて思ったのですが、最近注目されている若い作家(とくに女性)は、みんな「家族」というものをテーマにしている人が多いですよね。最近読んだなかでは「さくら」(西加奈子)とか「幸福な食卓」(瀬尾まいこ)とかもそうでした。一時期「個人主義の時代」というのがあったような気がするのですが、むしろ最近は「家族への回帰」というのが、ひとつの流れなのかなあ、と感じています。みんな、そんなに「家族」に戻りたいのか、それとも「家族」以外に戻る場所はないのか。いや、実際はたぶん、親の出生に疑問があっても、そのルーツをたどるなんてことをする人は、ほとんどいないと思うんだけど。
余談ですが、この本を読んでいて、弟が実家に彼女を連れていったときに、体調が悪くて寝込みがちだった母親が急に張り切って、「あの頃は厨房に自分で立つことはほとんど無かったのに、突然食べきれないくらいのごちそうを作ってくれて、びっくりした」と弟が話していたことを思い出しました。そこに過剰な「意味」を見出そうとするのは、遺された人間の傲慢なのかもしれないのですが。
みんなが「純愛」を切望していた時代に、「純愛小説」が沢山世に出たことを考えれば、現代は、「家族愛」をみんな切望している時代なのだろうか?