琥珀色の戯言

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死神の精度

死神の精度

死神の精度

これを書いている時点では、直木賞の結果はまだ出ていないのですが(というか、「容疑者Xの献身」の感想は受賞してから書いたほうがいいかな、とか考えていたりして)、この伊坂幸太郎さんの『死神の精度』、かなり面白かったです。僕が伊坂さんの作品を読むのがちょっと久しぶりだった、ということもあるのかもしれませんけど。
以前、『鴨とアヒルのコインロッカー』を読んだとき、「すごく面白いんだけど、なんだかよそよそしい感じ」と思ったのですが(http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20040727#p1)、その後の伊坂さんは、揺らぐことなく自分の芸風を貫いていて、正直読者としては「負けたなあ」という気がしてしまいました。独特の言い回しが鼻につかない人なら、間違いなく楽しめる作品だと思います。というか、村上春樹さんと同じで、その「独特の言い回し」そのものが伊坂幸太郎でしょうけど。

以下ネタバレ感想なので、未読の方は気をつけてくださいね。


連作短編の第1作の『死神の精度』を読んだとき、「なんかベタな展開だしつまんないなあ…」と思ったのですけど、実はその「ベタな展開」が最後の『死神と老女』に繋がっているんだなあ、と、ちょっとだけ、ふーん、と感心していたら、実はもっと大きなリンクがこの連作のなかに隠されていたということが最後にわかるのです。というか、大きなほうのリンクだけだったらこんなに「やられた!」と思わなかっただろうけど、最初に小技と見せて「こんなものか…」とわかったような気になっているところだと本当に効果的だよなあ、と。
「7日間の調査期間と最後の見届け」「『ミュージック』好き」「『その日』までは何をやっても死なない調査対象者」「不死身で人間的な感覚を持たない死神」などの「死神ルール」さえ受け入れられれば、恋愛小説あり、ロード・ムービーあり、「かまいたちの夜」あり、ハードボイルドありの多彩な世界が楽しめるこの作品は非常にオススメできると思います。そして伊坂さんは、この「死神ルール」を自分で逆手にとって、トリックだの人情の機微だのを描いていくのです。普通に考えれば、この設定だと「最後の7日目ギリギリまでいろんなことが起こって、最後に感動、あるいは驚愕のどんでん返し」にしてしまうのだけれど、あえて「最後まで描かない」というこの寸止め感!そして、こういう物語の常として、結局は「不可」になるんじゃないかと期待させておいて、結局は「可」にしてしまうという突き放し感!伊坂さんは書きながら、「こんな変化球はどう?」とニヤリとしていたのかも。
最後の老女、結局、千葉は「可」にしたのでしょうか?でも、なんだかもう、どっちでもいいのかもしれないな、という気もします。いや、「生き続けている」ということは素晴らしいことなのだけれども、本当に意味があるのは、「生きている、その瞬間」だけなのではないか、と。

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