- 作者: リリー・フランキー
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2005/06/28
- メディア: 単行本
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その一方で、確かにこの『東京タワー』という本は、これほど売れて話題になっているにもかかわらず、各種文学賞からは完全に「黙殺」されており、「多くの人が読んで感動したにもかかわらず、いわゆる『文学作品』として評価されていない本」に対して、「読者の実感としての賞」をあげるというのは、意義のあることなのかもしれないなあ、とも思います。いやまあ、『東京タワー』という作品に関して言えば、率直なところ「文学としての新しさ」というのは全く無いと思うし、同じような「身内の死」を描いた重松清さんの「その日のまえに」が「小説」としての完成度が高くて全体としての「伏線」もきちんと消化されているのに比べたら、とくに前半部なんか冗長だし、文学青年風な言い回しが目につくし、これは読者を感動させる伏線だと思ったアイテムが、文字通り蓋を開けてみたら、「えっ、それだけ?」というような拍子抜けするようなものだったりして、どう考えても小説としては「完成度が低い」と思うのです。
でも、そういう「完成度の低さ」「荒削りなところ」こそが、この東京タワーのリアリティであり、求心力でもあるんですよね。
http://www.enpitu.ne.jp/usr6/bin/day?id=60769&pg=20060315
↑の「コアミックス」の堀江さんの言葉にあるように、「メジャーって少しダサくないとダメ」なのだと思うし、『東京タワー』の魅力は、その「思い入れのあまり、ダサいところも勢いのままに書いてしまったところ」なのかもしれません。みんなが知ってる謎のダメ(そうな)男、リリーさんが書いたというのも、リアリティを補完しているし。この本、全然無名の人か有名作家が書いていたら、ここまで売れなかったような気がします。
それにしても、「書店員」の人たちは、もっとマニアックな評価をしていて、『東京タワー』なんて文学じゃなくてイロモノじゃねえか、とか考えていそうな気がしていたのですが、いわゆる「文学賞」の審査員のような「文学的評価」(人間が描けてない、とかですね)ではなくて、本当に「自分が読んで素直に感動した本」に投票したみたいですね。確かに「読者にいちばん近い目線の賞」だなあ、と感じました。
あと、「本屋大賞」って、「映画化しやすさ」が、投票基準に入っていそう。
ちなみに、僕が書いた『東京タワー』の感想は↓に
http://d.hatena.ne.jp/fujipon/20060314#p2
それにしても、ようやく残りが「告白」だけになった(というか、「告白」が巨大な壁なのですが)、僕の「ひとり本屋大賞」なのですが、なんだかこうして結果が出てしまうと、なんだかもうどうでもいいような気がしてきました。