琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

魔王

魔王

魔王

「ひとり本屋大賞」10作目。なんか本家に先に発表されてしまうと、われながらまだやっているのか、という感じなのですが。
で、率直なところ、この「魔王」という作品、僕にとってはいまひとつでした。いや、伊坂さんが言いたいこととか、危機感を抱いているということはよくわかるし、その点には僕も共感は覚えるのですけど、その一方で、この作品の主人公はさておき、肝心の犬養という政治家がどうも印象が薄いんですよね。いや、伊坂さんがこのひとを魅力的に見せようとしている努力は切実に伝わってはくるんだけど、伝わってくればくるほど、こちらとしては、「いくらなんでも、こんなヤツに騙されんだろ…」としらけてしまうんですよ。作中に出てくる「国民にインパクトを与える」はずの宮沢賢治の詩も、「何それ?」としか思えません。小道具がことごとくズレてるというか、この作品で伊坂さんが外角ギリギリを狙って投げているはずの球は、すべて僕にとって「敬遠球」みたいなんですよ。
 ストーリーの「寸止め感」というのはまさに伊坂さんの得意技なわけですが、この作品の場合、「寸止め」にすら達しておらず、「ジャンプの大風呂敷を広げたまま10週間で終わってしまった打ち切りマンガ」のようです。村上さんの「アフターダーク」みたいに、伊坂さんにとってもひとつの「過渡期」になる作品なのかもしれませんが、少なくとも「後世の歴史家」ではない僕にはあんまり面白くなかったです。
 読者サービスのつもりで千葉を出したのかもしれないけど、それもかえって逆効果になってしまっているしねえ。伊坂さんを読むのなら、僕はこちらより「死神の精度」を圧倒的にオススメします。

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