琥珀色の戯言

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チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光

医療現場を取り上げたミステリー。「このミステリーがすごい!大賞」を圧倒的な評価で獲得した作品でもあり、「面白い」と評判でもあったので、「医療現場モノ」の小説とかはあまり好きではない僕も、手にとってみる気になったのです。
それで、読み終えての感想なのですが、確かに面白いミステリーなので、一読の価値はあると思います。けっこう専門的な用語も使われているのですが、それはかえって、リアリティを増す効果を挙げているものだと想像できますし。田口先生、白鳥、高階院長、桐生先生などの登場人物も個性的かつ魅力的です。これはいったいどうなるんだ?と最後までぐいぐいと引っ張られていくのです。各所で賞賛されている、白鳥という人物に対して、僕はあまり好感は抱けなかったのだけれど。

ただ、「手放しで絶賛」とまではいかないところもあって。

(以下、完全ネタバレなので、未読の方は御注意ください)
 率直に言って、僕の評価が下がってしまったのは、この事件の「犯人」と「動機」と「トリック」に対してなのですよ。氷室が犯人で、トリックが毒物の術中の注入っていうのはさ、それは確かに「それしかない」のかもしれないけれど、あまりに面白味がない犯人と、面白味がないトリックなんじゃないかな、と。動機が「あるひとりの麻酔科医の中に芽生えた『殺人願望』」だなんて、あまりにもベタというか、つまんない動機だし。それでいいなら、誰でも殺人鬼にできちゃうよ。「明らかに異常な人物」による犯行っていうのは、この作品の「リアリティ」というのを、かなり薄めてしまっているんですよね。「ああ、そういう人がいたんなら、しょうがないね」って。例えば、鳴海先生が、なんらかの理由で「切除範囲」を広めに設定することによって患者が助からないようにしたのではないか?と僕は思っていたのですけど、実際はあまりに単純なトリックで拍子抜けしてしまったんですよ。
ミステリーって、「ああ、だから人を殺そうとまで思ったのか」とか「まさかこんな人が犯人だったなんて」というような「納得」とか「驚き」が欲しいじゃないですか。でも、「チーム・バチスタの栄光」という作品は、肝心のその「動機」「犯人」「トリック」が、面白くなかったんですよ、僕にとっては。
そして、それ以外のところ、「手術」についてのディテールとか、病院内の人間関係とか、外科医の評価だとか、そういうところは本当に面白かったのです。要するに、「ミステリー要素以外は、素晴らしい小説だった」と。まあ、書かれたのが現役医師なので、最後のほうは「医療界への配慮」として、「美しい話」にせざるをえなかった、というのも伝わってくるんですけどね。
1200万円の賞金と印税があっても、一生食べていくには厳しいしなあ。

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