琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

中田英寿引退に思う

http://germany2006.nikkansports.com/paper/p-sc-tp4-20060704-0028.html

率直に思ったことを書くので、ファンの人は気を悪くされるかもしれません。
『HERO』の冒頭で、このニュース速報を見たときには、本当に驚きました。「代表引退」は十分ありえるだろうな、とは予想していましたが、まさか現役引退とは。しかし、最近のリーグ戦での出場機会の激減や「年俸のわりに働かない選手」などとして取り上げられる機会が多かったという状況を考えれば、あと4年間サッカー選手として消耗しきって「中田ももう終わりだ」と言われて引退するよりは、こういう形での幕切れにしたほうが、本人にとってはよかったのだろうな、と思います。怪我もあるし、29歳という年齢は、「まだまだ若い」けれども、20歳そこそこから世界と戦ってきた中田選手の身体の「勤続疲労」は、たぶん、実年齢を超えたものでもあったのでしょう。しかし、次のアジア予選で勝ち抜くということを考えれば、中田の不在というのは非常に大きい。というか、中田のいないチームで、日本はワールドカップに出場したことはないのだから。

ただ、日本サッカー界のパイオニアとしての中田の功績は賞賛されるべきものであるとは思うけれど、その一方で、みんなが「中田の言うことは、すべて正しい」というような先入観を抱いてしまうのはどうかな、という気がするのですよ。
http://live.sports.yahoo.co.jp/hide_message_text.html
↑で、引退のメッセージが全文紹介されているのですが、

最後となるドイツでの戦いの中では、選手たち、スタッフ、そしてファンのみんなに
「俺は一体何を伝えられることが出来るのだろうか」、それだけを考えてプレーしてきた。

俺は今大会、日本代表の可能性はかなり大きいものと感じていた。
今の日本代表選手個人の技術レベルは本当に高く、その上スピードもある。
ただひとつ残念だったのは、自分たちの実力を100%出す術を知らなかったこと。
それにどうにか気づいてもらおうと俺なりに4年間やってきた。
時には励まし、時には怒鳴り、時には相手を怒らせてしまったこともあった。
だが、メンバーには最後まで上手に伝えることは出来なかった。

(中略)

何も伝えられないまま代表そしてサッカーから離れる、というのは
とても辛いことだと感じていた。しかし、俺の気持ちを分かってくれている“みんな”が
きっと次の代表、Jリーグ、そして日本サッカーの将来を支えてくれると信じている。

この部分、僕にはちょっと気になってしょうがないのです。
これは、「ファンへの感謝」であると同時に、「チームメイトに対する批判」だと僕は感じるのだけれども、「中田のメッセージを受け止められなかった、他の選手たちが悪い!」というのは、あくまでも「中田サイドからの視点」でしかありません。
じゃあ、中田は、本当に「自分のメッセージをチームメイトに伝えるための工夫や努力」をしてきたのだろうか?とも思うし、正直、「これが最後の試合だという選手」と同じだけの全力疾走を、他の「これからもサッカー選手として生きていかなくてはならない選手」に要求することができるのだろうか?とも感じるのです。
僕は以前、「Number」で、中田がああいう「他の選手が追いつかないような厳しいパス」を出すのは、「世界では、このくらいのパスに追いつけないと通用しないというのを身体で感じさせるため」だという話を読んだことがあります。しかしながら、中田は結局、ワールドカップ本番でも、ああいう「味方に繋がらない世界レベルのパス」を連発しては、「なんでお前は追いつけないんだ?」と味方に肩をすくめて見せていました。
ちょっと待ってくれ、そりゃあ、練習や親善試合で、レベルの高いパスを出して鍛えるのは良いと思うよ。でも、ワールドカップという本番でそれをやっては、単なる「オナニーパス」なんじゃないかなあ。どんなに凄いキラーパスでも、味方に届かなければ本番では意味ないんだから。そこで、「味方が追いつけるくらいのパス」を出すという選択肢はなかったの?
それとも、中田にとっては、ワールドカップの本戦ですら「他の日本代表の選手たちに、世界を思い知らせる場」でしかなかったの?
中田は、すでに成功してしまった人間だし、引退しても生活に困ることはないでしょう。でも、他の多くの選手たちは、いくらワールドカップの舞台であっても、「選手生命」を賭けてまで戦うことが可能だったのかどうか。彼らは、生活のためにサッカーを続けていかなくてはならないし、致命的な故障なんてしたくはなかったに違いありません。むしろ、現実的には優勝は望むべくもない日本代表の一員としては、「これを機に、ステップアップできればいいなあ」というのが本音でしょう。それを「代表失格」と叱責するのは簡単だろうけど、今の日本のサッカー界って、代表になって引退しても、ごく一握りのスタープレイヤー以外は、サッカー解説者やコーチになれれば御の字、という世界なのです。だから、中田の心境はわからなくはないんだけれども、それを他の「普通の日本代表選手」に要求したり、「ファンの声」を利用して、他の選手たちにプレッシャーをかけるというのは、なんだかあまりに傲慢ではないかと感じるのです。
最大の問題点は、中田はプレイヤーとしては、「日本の要」ではあったのだけれども、だからといって、「みんなを引っ張るリーダーシップ」を兼ね備えていたというわけではなかった、ということではないかと。しかしながら、中田が凄いプレイヤーであるがゆえに、そういう「本来は中田には向いていない仕事」まで、みんなが期待しすぎてしまったのです。
逆に、単なる中心選手のひとりとしてプレーに集中することができる環境だったら、もっと違った結果が出せたのかもしれません。

僕は正直、これから第二の人生でもたぶん成功するであろう中田よりも、こんなふうに中田とファンの板ばさみになって、打ちひしがれてしまった他の代表選手たちの今後のほうが、よっぽど心配なのです。

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