琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート

風に舞いあがるビニールシート

森絵都さんの第135回直木賞受賞作品。
僕は「永遠の出口」と「いつかパラソルの下で」しか、森さんの作品を読んだことはないのですけれども、この「風に舞いあがるビニールシート」には、森さんの懐の広さをものすごく感じました。
6つの短編からなっている本なので、一編ずつ簡単な感想を。

「器を探して」(★):この本の中で僕はいちばん苦手な作品です。とくに最後の男とのやりとりの場面なんて、正直不快です。この主人公、こんな人じゃないだろうよ森さん、とか言いたくなってしまいます。ただし、これが好きだという女性がたくさんいるということも、僕には理解できるのですが。

「犬の散歩」(★★):普通。可も無く不可もなく。でも、幸せな物語ではあるので読んでいて悪い気はしませんでした。

「守護神」(★★★):僕にとっては、この本のなかの「ベスト作品」です。僕もニシナミユキに逢ってみたくなりました。小道具の使い方も気が利いているし、思わず微笑んでしまう作品です。元気が出ます。

「鐘の音」(★★★):僕の第2位。内容はそんなに珍しいものではないような気がしますが、この仏像に対する薀蓄の凄さには圧倒されます。みうらじゅんさんやいとうせいこうさんにも読ませてあげたい。しかし、これだけいろんなことを調べたにもかかわらず、短編1本でそれを吐き出してしまうのって、ちょっと勿体ないような。

「ジェネレーションX」(★):うーん、僕にはちょっと「あまりに御都合主義なわりには、意外性もない話」にしか思えませんでした。

風に舞いあがるビニールシート」(★★):これが第3位、かな。なんかこういう話で「身体の相性」みたいなのがしきりに語られるのって、なんだか違和感ありまくりなんですけど、でも、そうじゃないと結ばれなかったのだろうからしょうがないのかな。ただ、僕はこの作品は綺麗で感傷的だけれど、リアリティが足りないような気はするんですよね。人というのは、生きているうちは理解されないものなのかと、ちょっと悲しくなったり、ね。

というわけで、個々の作品に対して書いてみたのですが、こうして並べてみると、僕は基本的に森さんの作品については、「薀蓄が多い作品」とか「専門職の人が出てくる作品」とかが好きで、「性的な要素が強い作品」は好きになりにくいみたいです。
それにしても、森絵都さんって、「永遠の出口」とか「いつかパラソルの下で」のような長編では記憶の流れに任せて筆を運んでいるような印象があるのに対して、かなり取材・勉強したであろう話を短編にサラッとまとめてしまう人なのだなあ、と、今回の「風に舞いあがるビニールシート」を読んでいて感じました。

読み返してみると、あんまり賞賛しているように思えないのですが、僕はこの短編集、かなり好きなんですけどね。
誰かが書いていたけれど、誰が読んでも、気に入る作品が一編はあると思うし。

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