琥珀色の戯言

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生きてるだけで、愛。 ☆☆☆(満点は☆5つ)

生きてるだけで、愛

生きてるだけで、愛

芥川賞候補作。
ダ・ヴィンチ」で連載されているエッセイを読んだりもしていたので、本谷有希子さんにはけっこう注目しているのです。
この作品なのですが、手に取った最初の感想は、「この値段(1300円)にしては、薄い!」でした。それでも、読んでみたかったので買いましたが、正直、この価格設定は酷いと思う。いかにも「ちょっと厚くするために付けてみました」という印象の書下ろし作品「あの明け方の」は要らないので、せめて1000円以下にできなかったのでしょうか。
作品そのものに関しては、「絲山秋子の世界を綿矢りさの文体で書いたらこんな感じになるんだろうな」というのが僕の印象です。いや、巧いんですよね本谷さん。ときどきハッとするような表現があって感心したりもするし。ただ、僕はもう「メンヘル女性」と「家族愛の再生」の物語を書く若手女性作家には、かなり飽き飽きしているんです。この作品も、「またこんな内容?」って聞き返したくなりました。というか、女性の愚痴だけが「文学」じゃないだろうよ。まあ、それは本谷さんだけの責任では、全くないのですけど。
森絵都さんやあさのあつこさんといった「物語」を書く作家の人気が高まってきているのは、こういう「自家中毒に陥りつつある女流作家」たちへのアンチテーゼなのではないか、という気もします。「私のほうが、もっと凄いメンヘルなのよ!」って、もういいよお腹いっぱい。
僕は最近、「よくできたフィクション」を読みたくなることが多いです。

 津奈木は自分の意見を主張しないことで、自分の中で作り上げている世界に他人を介入させない。自分と他人の間に絶対的な距離を置いていて、年に漫画や小説を百も二百も読んではその価値観にじっくり浸り、強固な津奈木ワールドを築きあげている。口数が少なくて人当たりが柔らかいからいい人だと勘違いされるだけで、あたしに言わせればあれほど他人に無関心な男もいない。

「うわっ、津奈木は僕だ!」とか驚愕してしまうような、凄い文章がときどき含まれていますし、けっして「つまらない」作品ではないんですけどね。芥川賞獲ってても、おかしくはなかったと思う。「作家力」ではなくて作品単体でいえば、「沖で待つ」よりも僕は好きです。
ただ、この値段だとコストパフォーマンスはかなり悪いので、本谷さんにものすごく興味がある方以外は「文庫待ち」でもいいかな、と。

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