琥珀色の戯言

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お縫い子テルミー ☆☆☆

お縫い子テルミー (集英社文庫)

お縫い子テルミー (集英社文庫)

 表題作は、第129回の芥川賞候補にもなった作品です。
 調べてみたら、このときの受賞作は吉村萬壱さんの『ハリガネムシ』。ちなみにこの回は、絲山秋子さんの『イッツ・オンリー・トーク』も候補になっていました。うーん、そりゃ相手が悪かったというか、絲山さんは芥川賞を『イッツ・オンリー・トーク』で受賞しているべきだったのではないかな、とちょっと思いつつ。
 それで、この『お縫い子テルミー』なのですが、芥川賞候補になったときから、タイトルのインパクトが強くて、なんとなく気になってはいた作品だったのです。タイトルのキャッチーさでは『人のセックスを笑うな』と双璧かもしれません。それで、今回文庫化されたのを機に読んでみたのですが、なんというか、非常に中途半端というか勿体ない印象を僕は受けました。

「ご要望があればなんでも作ります。一針入魂、お縫い子テルミーです」

 こういう「上手いっ!」って呟きたくなるようなフレーズがところどころにあるのですけど、作品全体としては、正直「何が書きたいのか、よくわからない」と感じたのです。いや、舞台設定としては「流しのお縫い子」というのはとても面白いと思うのだけれども、それを生かしきれていないというか、もうちょっとテルミーが作った衣装の「魔力」を感じさせてくれるようなシーンがあってもいいんじゃないかな、と。この舞台設定って、やりかたによっては「裁縫美味しんぼ」(あるいは「お縫い子の宅急便」)にできそうな気がするくらい、「使える設定」だと思うのですが、なんかこう、消化不良なんですよね。登場人物も「面白そうな人たち」が出てはくるものの、「出番これだけ?」と問い返したくなるようなキャラクターが多い。舞台は現代なのだか、ちょっと前の日本なのか、あるいはアナザーワールドなのか、その「はっきりしないところ」がこの作品の魅力のように思えるのに、いきなり「キムタク」なんていう固有名詞が出てきて興醒めしてしまったり。
 オビとかを見ると「かなわぬ恋とともに生きる、自由な魂を描いた」ということらしいのですけど、なんだか、少なくともこの長さでは「かなわぬ恋」も「自由な魂」も、「描ききれていない」ような。アイディアは素晴らしいと思うので、筒井康隆の『七瀬シリーズ』みたいに、『お縫い子テルミーの冒険』みたいな感じで、連作短編小説にしてみたら面白いんじゃないかなあ。せっかくの好設定がもったい気がしてなりません。

 あと併録されている『ABARE・DAICO』は、どこかで読んだことがあるような児童小説風の作品です。可もなく不可もなく。

 ちなみに、解説は江國香織さん。確かに、江國さんの名前に惹かれてこの本を手にとった人にとっては、満足できる小説かもしれないな、と思います。

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