琥珀色の戯言

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三四郎はそれから門を出た ☆☆☆☆

三四郎はそれから門を出た

三四郎はそれから門を出た

 新直木賞作家・三浦しをんさんの「最新刊」として発売されたこのエッセイ集。書評やオタク女子系文化に関する文章などが所狭しと収められています。このエッセイ集に関しては、「なんとか直木賞受賞後のイキオイに乗じて出そう!」というような出版社側の「色気」も感じられるのですが、それにしても、『Gag Bank』から『anan』、『朝日新聞』まで、三浦さんというのは本当に「芸域が広い」作家だなあ、と感心してしまいました。そして、本がものすごく好きなのだというのも伝わってきます。まあ、率直に言うと、あまりにも「教科書的な読書エッセイ」なのではないか、という気もしなくはないのですけど、それでも、この人は「善意の本読み」であることは間違いありません。

 係の女性が、冬の星座について解説してくれる。一番探しやすいオリオン座には、ベテルギウスとリゲルという2つの明るい星がある。それぞれ、「腋の下」「左足」という意味だそうで、文字どおり、オリオン君の腋の下と左足の位置で光っているのだ。星の名前って、横文字で聞くとかっこいいが、翻訳すると間が抜けてるな……。

なんていう、豆知識的なものも紹介されていて、けっこう感心させられますし。

そうそう、僕が最も興味を持ったのは、この「実験」の話です。

 電車の中で、人はなにを読んでいるのか。
 私はそれが気になってたまらない。電車内で近くの人が読む書物を、「なあに、それはなんの本?」と尋ねんばかりに覗きこんでしまう。覗きこまれた人は当然、私の不躾な視線にたじろぎ、「なんだよ、見るなよ」と迷惑そうな素振りをする。だが、私はひるまない。本に書店のカバーがかかっていてタイトルがわからないときは、開かれているページをそっと盗み読みしてまで、なんの本なのか確認する。
 こうして、車内で人様の読書を邪魔するうちに、私はふと思いついた。
 自分で選んで読む本は、どうしても自分の趣味や興味のある分野に偏ってしまいがちだ。ここはひとつ、車内で偶然隣り合った人が読んでいる本を、私も手にとって読んでみる、というのはどうだろう。そうすれば、これまで見落としていた面白い本を発見できるかもしれない。
 自分が読む本を自分で選ばずに、見知らぬ他人に委ねるというのは、なんだか楽しい賭けではないか。十月某日。車内で乗客が読んでいる本のうち、タイトルが判明した最初の3冊を、私も問答無用で読んでみようと決め、わくわくしながら電車に乗りこむ。

 このあと、三浦さんの「体験記」が続くのですが、これって、すごく面白そうだと思いませんか?
 いくら「本好き」といっても、実際は「読む本の傾向」というのは、けっこう偏ってしまうことが多いのではないでしょうか。
 僕自身も、「なんとなく避けてしまう(というか、選択肢に入らない)作家」というのはいるのですよねやっぱり(具体的には、村上龍さんの小説はなんだか苦手だし、「バリバリの恋愛小説」という感じの小池真理子さんとか村山由佳さんとかも敬遠しがち)。友人にお薦めを尋ねても、「僕が好きそうな本」を選んでくれることが多いので、なかなか「新境地の開拓」というのは難しいのです。でも、電車で隣に居合わせた人が読んでいた本を「問答無用で」手にとってみれば、意外な発見がありそうな気がします。僕は通勤に電車を使わないので実行するのはなかなか困難なのですけど。

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