琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

雪に願うこと ☆☆☆☆

北海道特有の障害物レース“ばんえい競馬”を舞台に、人生に挫折した青年の再生と家族のきずなを描いた人間ドラマ。人気作家・鳴海章の小説「輓馬」を『透光の樹』の根岸吉太郎監督が映画化し、第18回東京国際映画祭でグランプリを含む4冠を獲得した。主人公の兄弟を佐藤浩市伊勢谷友介が演じるほか、小泉今日子吹石一恵ら実力派俳優が勢ぞろいする。巨体の輓馬(ばんば)たちが1トン近いソリを曳きながら力を尽くす、ばんえい競馬のダイナミックな映像が見どころ。(シネマトゥデイ

素晴らしい映画でした。

……馬が。

 率直に言うと、僕は競馬、そして馬が大好きで、この映画は「ばんえい競馬」の世界を題材にしていたので、非常に興味深く観ることができたのだと思います。ちょうど今、ばんえい競馬は存廃の境目に立っているところですし。
 ソフトバンクの支援で、なんとか帯広市での単独開催で当面は存続できそうな雰囲気なんですけどね、今のとことは。
 でも、「日本の馬文化のひとつであるばんえい競馬をなくすな!」と叫びながらも、僕自身は「ばんえい競馬」のレースを一度も観たことがなかったのです。「優駿」という競馬雑誌の片隅に掲載されているレースの結果をときどき眺めるくらいのものでした。そして、この映画でいちばん印象に残ったシーンというのは、ばん馬たちのレースのシーンだったんですよね。1t近いソリを引っ張って、身体を折り曲げながら坂を必死で駆け上がっていこうとし、ときには力尽きて止まってしまったり、走る気をなくして坂の途中で佇んでしまったりしている大きな馬たちの姿は、なんだかとても感動的でした。ばん馬って、1000キロくらいあって、サラブレッドの2倍くらいの体重なので、かなり「ゴツイ」体をしていて、かなり迫力がありますし。

 そして、サラブレッドのレースと違って、馬が進んでいく速度もゆっくりなので、観客がみんな贔屓の馬たちを追いかけながらレースを観ているのも、なんだか「オレたちの競馬」という感じがします。こんな競馬が日本にもまだあったのだなあ。

 しかしながら、この映画の中でも、矢崎調教師(佐藤浩市)が弟(伊勢谷友介)に提示した「月給」が、「8万円」(ただし食事・住居つき)だったことからも、けっして景気がいい世界ではないのだな、ということは伝わってきます。北海道の一部でしか行われていない競馬ですから、レースの売り上げは少なく、賞金も低い。もちろんギャンブルの世界ですから、そんな綺麗事ばかりではないのでしょうが、それでも、地元の人々の数少ない娯楽として、運営側と観客がともに助け合って細々とやっているように見えるのです。ただ、その一方で、「こんな未来の見えない(というか、なんとか「持ちこたえる」ことはできても、これから右肩上がりになっていくとは到底思えない)ばんえい競馬に、いつまでも多くの人を縛り付けておくのが本当に良いことなのだろうか?」という気もしました。それでも、「続けることに意義がある」のだろうか?1人の競馬ファンとしての僕は「ばんえい競馬」が続くことを歓迎しているけれど、これを「人に糧を与えるための産業」だと考えると、正直悩んでしまいます。

 直接この映画とは関係ないことばかり書き連ねてしまいましたが、「ばんえい競馬」という「舞台設定」が個性的であることを除けば、あとはごく普通の「挫折と再生、そして家族愛の物語」です。そもそも、あんなに簡単に「復活」できるなんて、プロの厩務員をバカにしているのではないかとすら思うし。それでも、「ばん馬」たちの姿を観られるだけで、十分僕にとっては価値のある作品でした。

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