琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

つきのふね ☆☆☆☆

つきのふね (角川文庫)

つきのふね (角川文庫)

風に舞いあがるビニールシート』で直木賞を受賞された、森絵都さんの作品。もともと中高生向けに書かれたものだということで、正直、冒頭に出てくるのが中学生ばっかりだったりするのにはかなり気後れしてしまったのですが、読みすすむにつれて、この作品と主人公・さくらが持っている「生命力」みたいなものに引き込まれて読んでしまいました。
そんなに奇抜なストーリーでもなく、むしろ淡々と「崩壊への道のり」が描かれているような小説なのですが、この小説のなかには、作者の「それでも生きてもらいたいという善意」みたいなものが満ちていてるような気がするんですよね。「心を病む」というのは、周囲の愛情だけで解決できるような問題ではないとは思いますし、この小説もそういう意味では、「ハッピーエンド」ではなくて、「ハッピーエンドに向かいたいという意思」で留まっている作品ではあるのです。でも、それがたぶん、この作品の「真摯さ」に繋がっているのだと思います。絶対的な「救済」を描かないことこそが、むしろ、読者にとっての「救い」になっているのかもしれません。

「なのに死ねなかった。なんでかな」

僕も「生きたい人間」というよりは「死ねない人間」なので、この言葉が出てくる場面を読んで、泣けてきてしょうがなかったです。「生きろ!」という呼びかけよりも「でも、死ねないよね」という呟きのほうが、僕にとってはすごく共感できる。なんでかわからなくても、とりあえず死ねずに生きていく、そんな人生だって、あっていいのですよね、きっと。

「解説」で、金原端人さんが、こんなふうにこの作品について書いておられます。

 森さんによれば、『つきのふね』は児童書として、『永遠の出口』は一般書として書いたという。しかし大人が読んで、新鮮で感動的なのは『つきのふね』のほうだと思う。『永遠の出口』は現代小説としても、青春小説としても完成度が高く、評価も高く、彼女のこれまでの作品でベストだろう。それにくらべると『つきのふね』は、完成度は低いし、まだまだ生の部分があちこちに顔を出している。が、なんともとらえようのない、作者自身どうしようもない勢いがあって、それが読者を無防備にしてしまう。そんな力がこの本にはある。それがストレートに伝わるのは大人のほうではないだろうか。この作品については、多くの人から感想をもらっているが、大人のほうが絶対に、この作品に弱い。

 まさにその通りだよなあ、と頷いてしまう「解説」です。200ページあまりの薄い本ですし、児童書なんてつまらない、と敬遠している本好きの大人たち(僕もそのひとりでした)に、オススメしたい作品です。

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