琥珀色の戯言

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短大生遺体切断事件に思うこと

http://nouilles.s25.xrea.com/a-news2.cgi?date=2007.01.07

 今朝、当直明けでワイドショーを観ていたら、この妹さんのことをかなり突っ込んで取り上げていて、観ていていたたまれない気持ちになってきました。
 僕が観たところだけなのですが、

 この妹さんは芸能プロダクションに入っていて、将来の夢として”グラビアに出たい”と友達に言っていたが、しつけが厳しかったため、それを両親に話すことができなかった。

 というような話が出ていました。
 しかし、僕が親だったら、自分の娘がいきなり「グラビアをやりたい」なんて言い出したら、「おお!お前の夢をかなえるために頑張れ!」なんてそう簡単には言わないと思います。芸能界なんてごく一部の人しか成功できない世界だし、もしかしたら怪しいプロダクションに騙されているのかもしれないと心配するほうが先に立ってしまうでしょう。テレビ的には、「親の厳しいしつけで歪んでしまった子供たち」というイメージを植えつけたいのでしょうが、そんな単純に「善悪」を語れるような問題じゃない。

 この事件に関して、

 状況や自分のこれからの不安なんて、誰に言われるまでもなく、おそらく自分が最も深く分かっている。だからこそ、うかつに踏み込まれたくない領域がある。「成功しつつあった」人生を送っていた妹に、兄を見下す気持ちは全く無かったか。難関を突破せねばならない家業を継ぐ重みを、妹はどの程度理解していたのか。100パーセント理解しとけよ、なんてことは思わない。そんなことは不可能だし、それを求めるのは傲慢ですらあるからだ。しかし、だからこそ、周囲の人間は当事者に気軽に言ってはいけない言葉がある。頑張ってる人に頑張れ、とは言えない、その延長線上にこの事件はあるものなんじゃないだろうか。

 ↑のように藤子さんは書かれていて、確かにその通りだと思います。妹さんは「あなたには夢がない」と兄を責めたと伝えられていますが、「芸能界」というような「かなわなくても『所詮夢だった』で済むような夢」を振りかざして、「歯科医という、手の届くはずの、絶対にかなえなければならない目標」に縛られていた人を責めるというのは、やっぱり残酷だよなあ、と僕には思えます。残酷だから、あんなことをしていい、ということは絶対ないのだとしても。むしろ、そんなお気楽な「夢」を語れるという立場そのものが、兄にとっては憎悪の対象になったのではないでしょうか?
 その一方で、「お前は歯科医に向いてない(なれない)から、他のことをやったほうがいいよ」と周囲に認めてもらえたら、彼は「救われた」のかどうか? いくら他人が「歯科医だけが人生じゃない」と慰めてみたところで、一度そういう「刷り込み」をされてしまった人間の人生は、あっさり方向転換できるものなのか?

 僕には医者をやっている弟がいて、身内が少ない僕にとって彼は唯一無二の「理解者」なのですが、以前、なにかの雑談の折に、弟がこんなことを言っていました。
「医者って仕事が自分に向いているとは思えないし、好きになれない面もたくさんあるけど、こうやって兄ちゃんと普通に話せるのは、やっぱり『医者になれたから』だと思う……」
 僕たちは理系の教科が壊滅的にできず、ずっと「医者になんて、どうしてなっちまったんだろうねえ……」とお互いに溜息ばかりついていたのですが、そんな弟の心の中にも、僕が長年気づかなかったコンプレックスやプレッシャーみたいなものが潜んでいたのです。

 相手が身内だからこそ消すことができない「特別な愛憎」って、やっぱりあるのです。僕はこの家庭が「特殊」だとは全然思えません。「ゆがみ」があったとしても、そのひとつひとつはごく一般的な家庭にもみられる程度で、それが結果的に「積み重なってしまった」だけなのではないかと感じています。人って、お互いに傷つけようとしなくても、傷つけたり、傷つけられたりしながら生きていくしかないんだよなあ……

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