琥珀色の戯言

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出版業界最底辺日記―エロ漫画編集者「嫌われ者の記」 ☆☆☆☆☆

出版業界最底辺日記―エロ漫画編集者「嫌われ者の記」 (ちくま文庫)

出版業界最底辺日記―エロ漫画編集者「嫌われ者の記」 (ちくま文庫)

 この本、面白い!今年の年末年始最大の掘り出し物でした。
 「本の雑誌」の別冊の文庫ベストテンにランクインしていたということで紀伊国屋に並べられていたのですけど、僕がもともと他人の日常日記好きで、本の制作の現場に興味があるということもあって、すごく興味深い内容でもありましたし。
 塩山さんという方とこの本の内容については、編者の南陀楼綾繁さんの「編者まえがき」の一部を引用させていただきます。

 塩山芳明は、エロ漫画下請け編集者である。
「下請け編集者」というのは、つまり、編集プロダクションのことである。出版社から一冊の雑誌の、企画、漫画家の人選、編集、経理、発送までのすべてを請け負う。べつにエロ漫画でなくても、出版業界では普通のシステムである。
 しかし、塩山が率いる「漫画家」はフツーの編プロではない。塩山は、ドコが販売元であろうと、自分の手持ちの漫画家とライターと投稿者で一冊の雑誌をつくってしまう。表紙のキャッチコピーから投書欄まで、どのページにも「漫画屋」印が浮き彫りになっているから、下請けながら産直農産物なみに(あるいは、小さな新興宗教なみに)読者をガッチリつかんでいるのである。
 本書は、その塩山が1988年から現在まで書き続けている下請け編集者の日常を綴った日記を抜粋・編集したものである。『アットーテキ』『マンモスクラブ』『ホットミルク』『COMIC Mate』『コミック ラッツ』などのエロ漫画誌で、廃刊やリニューアルのたびに場所を移しながら連載してきた。

 正直、僕はこの本に出てくる漫画雑誌を手に取ったことがないし(というか、こんな雑誌があったのか、と初めて知ったものがほとんどでした)、登場する漫画家・作家も、知っているのはせいぜい杉作J太郎さんくらい。不躾ながら、僕の感覚では、『週刊少年チャンピオン』とか『コミックビーム』とかが「漫画界の下層階級」だったのですけど、この本を読んでみると、「僕が海の底だと思っていたのは、出版業界の大陸棚くらいだった」ということがよくわかります。ほんと、塩山さんの、そして「漫画屋」の雑誌たちの生き残るための悪戦苦闘ぶりは、哀愁をただよわせつつもコミカルで、ついつい読みふけってしまうのです。そして、同じ「出版業界」でも、大手出版社とエロ漫画の編集プロダクションでは、こんなに違うものなのかと思い知らされます。いや、こういう常にギリギリのところで闘っている状況というのは、読む側としては面白くってしょうがないんですけど。
 塩山さんはかなり厳しいことも書かれているのですが、僕にとっては「よく知らない人たちが罵倒されている」だけなので、かえって気楽に面白く読めるところもありました。贔屓の作家がこんなふうに書かれていたらイヤだろうな、というような記述もけっして少なくないし、塩山さんの「騒音へのこだわり」も理解はできるけれどやや偏執的にも思えるのですが、とにかく、全編「それでも生き延びる!」という生命力にあふれた著者が書く「出版業界最底辺」から見える日常は、非常に興味深かったです。

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