琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

グエムル -漢江の怪物- ☆☆☆☆

ソウルを流れる大河の漢江(ハンガン)に、謎の怪物“グエムル”が現れ、次々と人を襲う。河川敷で売店を営むパク家の長男カンドゥ(ソン・ガンホ)の中学生の娘、ヒョンソ(コ・アソン)も怪物にさらわれてしまう。カンドゥは妹ナムジュ(ペ・ドゥナ)らとともに病院に隔離されていたが、携帯電話に娘からの連絡が入ったことから一家で脱出を試みるが……。 (シネマトゥデイ

 この映画が劇場公開される前に映画館で予告編が流れると、周囲の席からクスクスという小馬鹿にしたような失笑が漏れていました。もちろん、僕もその失笑していた人間のひとりだったのですが。
 だって、この御時世にいかにもチープそうな「怪獣映画」で、しかもそれが「韓国歴代興行収入1位!」とかなんだから、「なんじゃこりゃ?」って思いますよ。
 日本では評論家たちにはかなりウケていたみたいなのですが、韓国映画全般の日本での失速傾向の影響もあり、興行収入はあまり芳しいものではなかったようです。まあ、あの予告編を観て「この映画観たい!」という人は、あんまりいないだろうし。
 逆に、「どうしてこんなチープそうな怪獣映画がそんなに韓国でヒットしたんだろう?」という意味では非常に興味があったので、今回、DVDで観てみました。
 結論からいえば、この『グエムル -漢江の怪物-』は、かなり「面白い」映画です。いや、巷間で賞賛されているような「ちょっとひねった家族愛の物語」だという観かたは僕にはあまりできなかったのですけど。だって、主人公のカンドゥがあまりにバカなんだもの。僕はテレビの前で3回ほど、声に出して「バカかお前!」と叫んでしまいましたし。ああいうのが「ピュア」とか言うんだったら、僕はピュアさに価値なんて見出せません。
 ただ、パニックアクション映画としては、「この先どうなるんだ?」という興味はずっと持ち続けることはできましたし、最後まで飽きずに観ることはできたんですよね。お葬式のシーンで悲しみにのたうちまわる家族の姿を観ながら、「こういうのが韓国式なんだな」と思いつつも耐えきれずに大笑いしてしまったり。はっきり言って「家族愛」というよりは、「バカ家族ウォッチング」という感じなのですが、娘のヒョンソだけはけなげに頑張っているので観客としても見捨ててはおけませんでした。
 この映画で最も特筆するべきことは、カメラワークとか演出の上手さだと思います。グエムルが人々に襲いかかるシーンの「間」とか、残酷な映像はほとんど使われていないはずなのに伝わってくるヒョンソの恐怖とか、お金をかけなくてもこういう見せかたがあるのだなあ、と感心しきり。
 けっして楽しくはなかったけれど、「面白い映画」ではありました。でも、この映画の「面白さ」っていうのは、僕にとっては「家族愛」とか「思想的な部分」ではなくて、単純に「お約束をあえてぶち壊しまっているところ」のような気がします。というか、この映画が「家族愛」なら、「天才バカボン」のほうが、よっぽど「家族愛」だよ。

 以下ネタバレ感想です。未見でこれから観る予定の方は、読まないでくださいね。

 あの「結末」に関しては、正直「後味が悪い」こと極まりないのだけれど、ああいう終わりでなければ、きっとこの作品は僕にはあまりインパクトはなかったのではないかと思います。しかし、やる気のない主人公、「大学出なのに」社会に適応できない弟、なぜかオリンピック選手の妹という3人兄弟には、本当に感情移入できないんですよねこれ。みんなバカなんだもの。そして、そのバカさに可愛げもない。あの家族のなかで、僕にとって理解可能なキャラクターであるお父さんとヒョンソがグエムルにやられて死んでしまい、バカの主人公は日常に回帰してしまうというやるせなさ。そして、「本当はあんまり強くない」グエムル。これほど不協和音を堂々を奏でている作品は珍しいし、そして、この兄弟のバカな人間がいて、こういうどうしようもない結末が引き起こされるっていうのが、本当はものすごくリアルなのではないかとも思えてくるのです。
 実は、「どうしようもないバカな人々を容赦なくどうしようもないバカとして描いた」というのがこの映画の最大の魅力なのかもしれない、と僕は考えます。「彼らの純粋な心が世界を救った」なんていう綺麗事を語らない「勇気」は賞賛されるべきでしょう。
 だいたいさ、「歴代ナンバーワン映画」がその看板ほどたいしたことないのは、韓国だけの話じゃないしね。『踊る大捜査線 THE MOVIE』とか、僕には何が面白いのかサッパリ分からないもの。

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