琥珀色の戯言

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風が強く吹いている ☆☆☆☆☆

風が強く吹いている

風が強く吹いている

「ひとり本屋大賞」8冊目。

内容(「BOOK」データベースより)
箱根の山は蜃気楼ではない。襷をつないで上っていける、俺たちなら。才能に恵まれ、走ることを愛しながら走ることから見放されかけていた清瀬灰二と蔵原走。奇跡のような出会いから、二人は無謀にも陸上とかけ離れていた者と箱根駅伝に挑む。たった十人で。それぞれの「頂点」をめざして…。長距離を走る(=生きる)ために必要な真の「強さ」を謳いあげた書下ろし1200枚!超ストレートな青春小説。最強の直木賞受賞第一作。

こんなにうまく行くわけないだろ!
僕もそう思います。なんというか、ものすごく「マンガ的」な小説ではあるんですよね。 
箱根駅伝っていうのは、エリート中のエリートの祭典であり、いくら「才能」があったとしても、陸上初心者のほうが多い、しかも10人ギリギリのメンバーがこんなにアッサリと箱根に行けるわけがないはずです。まさに「夢物語」。
でも、僕はこの本を読んで何度も涙がこぼれそうになりましたし(というか、ちょっと泣いた)、読み終えて、「なんてベタな『青春スポーツ小説』なんだ……」と苦笑しながらも、「いい小説だし、読んでよかったなあ」とも思いました。
この『風が強く吹いている』で寛政大が起こした「奇跡」が、いまの箱根駅伝で実際に起こる可能性は皆無でしょうし、書いた三浦しをんさんも、そんなことは百も承知のはず。しかしながら、フィクションには、フィクションでしか描けない感動があるのだ、ということなんですよね。そして、三浦さんは、ディテール(箱根のコースの特徴や大学陸上のシステム、走っている人の心の動き)には極力リアリティを追求した上で、この「壮大なスポーツ・フィクション」を書き上げています。僕のイメージでは、「三浦しをん」という作家が「スポーツ」を正面から描くなんてかなり意外だったのですけど、実際に競技者ではない人間だからこそ書ける「美しさ」っていうのはあるのかもしれません。臨床医が描く小説に「スーパードクター」が出てこないのと同じように。

読み終えてから思いついたのですけど、この『風が強く吹いている』って、野球マンガの金字塔『キャプテン』(ちばあきお)と同じような構造の物語なのではないでしょうか。清瀬を谷口、走をイガラシ、寛政大学陸上部と墨谷二中。「努力は必ず報われる」とは限らないのが現実ですが、せめてマンガや小説の世界だけでも、そういう夢がかなうのは良いことなのかもしれません。少なくとも読んだら元気が出ますし。そして、「僕も走ってみようかな」とちょっとだけ思いましたし。

三浦さんが「スポーツ小説」「青春小説」なんて、悪いものでも食べたのだろうか?と心配になってしまったのですが、バカにしていてすみませんでした、と謝りたい気分です。導入部がやや冗長で飽きそうになりましたが、予選会のあたりからはどんどん盛り上がってきて、箱根では読み終えるのが惜しくなりました。やたらと分厚い本でちょっと手に取るのをためらう方も多いかもしれませんが、ずっと騙されていたくなる素晴らしい「嘘」ですので、興味を持たれた方はぜひ。

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