琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

カポーティ ☆☆☆

ティファニーで朝食を」などで知られる作家、トルーマン・カポーティの半生に迫ったドラマ。カンザスでの一家惨殺事件に興味を持った彼が、服役中の犯人に取材を試み、「冷血」として小説に書き上げるまでを描く。死刑を宣告された犯人を自作に利用しつつも、やがて親近感を覚えて戸惑うカポーティ。作品のために“冷血”になっていた彼が、死刑を前にした犯人の心を知る過程は、感動的でありスリリングでもある。

 「面白い!」とはちょっと言いがたいものの、「興味深い」作品ではあると思います。トルーマン・カポーティという作家が『冷血』というノンフィクションを書き上げるまでの話なのですが、「ノンフィクションを書く」というのは、取材者自身にとっても、自分を消耗していく作業なのだな、ということが伝わってきます。トルーマン・カポーティを演じたフィリップ・シーモア・ホフマンは、この作品でアカデミー主演男優賞を獲ているのですが、カポーティという人物の「歪み」、エキセントリックで繊細なのだけれども、その一方では作品のためなら手段を選ばずに取材をすすめていったり、自分が有名作家であることを最大限に利用したりするという「傲慢で利己的な面」も誠実に演じているのです。僕はもちろん本物のカポーティがどんな人物だったかは知らないのですが、この映画での描写や伝記での人物像を信じるとするならば、「仕事は依頼したくても、友達にはなりたくないタイプ」だとは思います。けっして悪い人ではないし、むしろ無垢な感じさえするんですけどね。
 ただ、この映画に関して言えば、僕はあまり内容にのめりこめないというか、この犯人たちに共感していくカポーティに対して、僕はあまり感情移入できなかったんですよ。本当に身勝手な理由で、恨んでいたわけでもない一家4人を行きあたりばったりで惨殺した犯人たちに、「作品のため」そして「個人的な共感」から便宜を図っていたカポーティは、被害者側からみたら「自分の作品のためなら、犯罪者たちの味方もするひどい男」にしか見えなかったでしょう。もちろん、僕だって完璧な人間ではないし、何かのきっかけで重大な過ちをおかしてしまう可能性はあります。でも、この犯人たちと、彼らを援助するカポーティは、少なくとも今の僕にとっては「生理的に不快な存在」でした。
 しかし、こういうのが「ノンフィクションの、そして創作者の現場」なのでしょうね。やっぱり厳しい世界だと思います。ちなみに村上春樹さんはこの映画について「興味深い作品だし、なかなか面白かった」というようなことを仰っておられました。あと「当時の服装や調度品が精巧に再現されていて、それも見どころのひとつだ」とも。
 それにしても、アメリカの大作家って、カポーティの他にも、カポーティの取材助手としてこの映画に出てくるハーパー・リーやJ.D.サリンジャーマーガレット・ミッチェルのように「驚いてしまうくらい寡作の人」が多いですよね。それでも食べていけるというのは、ある意味すごいことなんでしょうけど。

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