琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

鮨に生きる男たち ☆☆☆☆

鮨に生きる男たち (新潮文庫)

鮨に生きる男たち (新潮文庫)

すきやばし次郎」をはじめとする綺羅星の如き一流店で、今日も握りの腕を振るう男たち。今では名人とまで呼ばれる彼らも、最初は一人の若者だった。十代で修業に入り、精進を重ねて一人前となり、店を構えてなお味の奥義を極める年月。全国十七人の鮨職人の錚々たるドラマに、鮨を愛してやまないノンフィクション作家が迫る。読み応えも味わいもたっぷりの列伝。

 僕はこういう「職人」とか「専門家」の世界の本を読むのが大好きなのです。この本、書かれている早瀬圭一さんの語りっぷりがいかにも「通」っぽくて、そういう粋人の世界には縁が無い僕にとってはちょっとイヤな感じもするのですけど、それを差し引いても、ここで語られている「鮨に生きる男たち」の姿には、なんだかとても心魅かれるものがあったのです。実際は、「名店に入って、厳しい修行をして頭角を現し、独立して店を繁盛させる」という「成功への道のり」に、そんなに個人差があるわけではないんですけどね。でも、その「あらすじで言えば同じような道のり」のなかに、それぞれの名人の「人柄」とか「重視しているもの」が反映されていくわけです。
 自分の店を持ちたいという野心で突き進む人、名店の跡継ぎになれたかもしれないのに、実家の都合で田舎に帰ることを選んだ人、職人というより、実業家になってしまった人……
 「同じようなサクセスストーリー」のはずなのに、結局僕は最後まで飽きずに読むことができました。
 もちろん、「ああ、この人たちが握った鮨が食べたいなあ……」と思いながら。

 「新橋鶴八」(東京・新橋)の石丸久尊さんについての項より。

 時々、どの店でも「今日のおすすめは」などと馬鹿なことを聞く客がいる。「たかちゃん」は、そんな客を嫌う(口に出して言ったことはないが、そう思っているにちがいない、と私はみる)。仮にそんなことを言われると、
「札が下がっているものでお好きなものをおっしゃって下さい」
 必ずそう言う。実はこれも親方そっくりである。神保町の親方は、「たかちゃん」よりも20も年上なのにずっと血気盛んだったから、「おすすめは」なんて言われようものなら露骨に嫌な顔をした。「たかちゃん」と同じような言い方で「お好きなものを」と返しながら(札が下がっているものでおすすめ出来ないものなんて一つもないよ)という顔をしていた。 
(中略)

 もう一つ、今回話していて納得と思ったのは、「いいネタから使っていきます」と彼が言ったときだ。新鮮なものを置いておいても仕方がない。来たお客さんにそのとき最高のを使う。「残るときはどうせ残るのです」。そうだ、そうでなければ――。

 この強烈なこだわりと自負心!
 ほんと、こういう店のカウンターに、一度くらいは座ってみたいものです。でも僕には敷居高そうだなあ……
(ちなみに、この本で紹介されている「名店」は、夜にカウンターで「おまかせ」を頼むと一人1万〜2万円くらいの店がほとんどです)
 

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