琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

私が語りはじめた彼は ☆☆☆

私が語りはじめた彼は

私が語りはじめた彼は

あっという間にアカの他人。でも実はまだ切れていない、「彼」と私の仲。それぞれの「私」は闇を抱える、「彼」の影を引きずりながら。男女の営みのグロテスクな心理を描く“関係”小説。

 そんなにカッコいいわけでもないのになぜか女性から愛される男、大学教授・村川融に関わってしまったことにより、多かれ少なかれ人生に影響を受けてしまった人々を描いた短編集なのですが、僕がこの作品を読んでいて痛切に感じたのは、やっぱり三浦さんは「女」なんだなあ、ということでした。ここで描かれている「男」たちって、僕にはなんだかとても「潔すぎる」ように思えてしょうがなかったんですよ。男って、こんなにいろんなことをキッパリと諦めたり、切り替えられたりできるようなものじゃないのでは……
 そして、もうひとつ感じたのは、「村川融」という人間のイメージが、この本を全部読んでもいまひとつよくわからなかった、ということでした。同じように「彼と付き合った女性たちの独白」で書かれている『ニシノユキヒコの恋と冒険』では、読み終えると「ニシノユキヒコの輪郭」が見えてくるのですが、この作品からは、「なんだか禍々しい存在としての村川融」しか伝わってこないんですよね。いや、川上弘美さんが書きたかったのが「ニシノユキヒコ」で、三浦さんが描きたかったのは、「そういうぼんやりとした『愛憎の対象としての人間』」であったのかな、とも思うのですけど。
 この連作短編集のなかで、僕は『予言』と『冷血』は好きでした。むしろ「村川から遠いところにいたけれども影響を受けずにはいられなかった人々の話」のほうが面白いな、と感じたんですよね。

 たった二人で、支え合ったりけなしあったりして生活していくのは、非常に難しいことだ。私は結婚してみてようやく実感した。世の多くの夫婦が、どうして子どもをつくり、家を手に入れたがるのかを。子どもの教育、家のローン。緩衝材や刺激物を混入させることで、夫婦は夫婦として機能しやすくなるのだ。一対一の人間関係は厳しい。緊張に疲れはてるか、惰性に流されるか、たいていはどちらかに行き着いてしまう。

 こんな印象的な言葉も散りばめられていますし、とにかく「心に引っかかる作品」であることは事実です。三浦しをんさんというのは「芸域」広いなあ。
 まあ、そろそろ文庫化される時期だと思われますので、興味のある方も「文庫待ち」でよろしいかと。


<おまけ>昨日書店に行ったら、単行本で読んで面白かった本が何冊か文庫化されていました。せっかくなのでオススメしておきます。

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

封印作品の謎―ウルトラセブンからブラック・ジャックまで (だいわ文庫)

 マンガ、TV(特撮)などの「なんらかの理由で『お蔵入り』になってしまい、現在は観られない(読めない)作品」について書かれた労作です(例:「ウルトラセブンの12話」)。「封印作品」なんて、所詮キワモノばかりなんだろ?と思われるかたも多いかもしれませんが、『ブラックジャック』にも「お蔵入りになった作品」が何作かありますし、『封印作品の謎2』(注・まだ単行本のみ)では、『オバケのQ太郎』や『キャンディ・キャンディ』も現在は「封印」されているということが語られています(この2作は、「表現上の問題」ではないんですけどね)。
 しかし、『どろろ』の映画があんなふうにド派手に公開されて大ヒットしていたりするのを見ると、ネットの影響などもあるのか「表現による封印」というのは、かなり緩和されてきているようではありますね。『シグルイ』なんて、20〜30年前なら絶対メジャー漫画誌には描けなかったんじゃないかなあ。
封印作品の謎 2

封印作品の謎 2


そしてこの作品も文庫化。

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

 伊坂さんの本って、読んだあと、その「善意」でお腹いっぱいになっちゃって「もうしばらくいいや」と思うのですけど、しばらくするとまた「ああ、なんか伊坂幸太郎が読みたい気分……」になるんですよね、不思議なことに。

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