琥珀色の戯言

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大人計画社長日記 ☆☆☆☆

大人計画社長日記 (角川文庫)

大人計画社長日記 (角川文庫)

 松尾スズキからグループ魂まで、あらゆる才能が所属する大人計画。1988年の旗揚げから18年目の2006年9月、多摩センターの廃校で「大人計画フェスティバル」を敢行し2万人を動員。お金を貯めることより、「面白いこと」を求める大人計画がガツガツせずに辿ってきた道のりを社長が自らの人生と共に記録した。怒濤の「大人計画フェスティバル」、キャスト&スタッフ37人による証言も追加収録。

 僕は演劇とか映画を観るのが大好きなのですが、それと同時に、こういう「裏方」の仕事にもものすごく興味があるのです。僕自身が「裏方気質」なので、シンパシーを感じてしまうのかもしれません。というわけで、非常に興味深くこの本を読んでいったのですが、不思議だったのは、『大人計画』って、旗揚げしてから20年近く、一度も「解散の危機」が訪れていないんですよね。でも、この長坂さんの本を読んでいるうちに、僕にはその理由がわかったような気がしました。松尾スズキ宮藤官九郎阿部サダヲなどの「天才的なパフォーマー、脚本家、演出家」が集まっていたのと同時に、「大人計画」には、長坂まき子という「熱意と冷静さを併せ持つ金庫番」がいたというのが大きかった、ということなのでしょう。
 以前、劇団『リリパット・アーミー』のことを若木ゑふさんが書かれた本のなかで、「今まで劇団をやってきて、チケットのノルマなどで手出しになるのが当たり前だと思っていたけれど、中島らもは、公演が終わったあと、団員たちに(わずかな金額とはいえ)ギャラをキチンと出していたのに驚いた」というのを読んだことがあります。あのジャイアント馬場さんが、全日本プロレスの社長としてずっと誇りにしていたのは、「一度もレスラーたちのギャラを滞らせたことがない」ことだったそうです。
 舞台などの興行の世界って、いい作品さえ創っていれば、お金は二の次、どんぶり勘定が当たり前、というようなイメージを持っている人が多いようなのですが、コンスタントに良いものを作り続けていくためには、こういう「お金の管理や内部調整をしっかりやってくれる裏方」の存在というのは非常に大きいようです。「大人計画」では、所属しているキャストの劇団外へのプロデュースも行っているとのことで、その「売り出し」のために奔走する長坂さんをはじめとするスタッフの努力もこの本には書かれています。「組織としてしっかりしているからこそ、舞台の上で役者たちは好きなことができる」のですよね。

 劇団の制作の仕事というのは、基本的にはこんなところです。
 次の公演をいつ頃、どこでやるのかを主宰者と相談。劇場を押さえる。公演回数や開演時間、チケット料金を決める。スタッフを誰にお願いするか決める。チラシのデザインを打ち合わせして印刷。あがってきたらチラシの折り込み。チケットを各プレイガイドに配券。予算立てをする。公演当日は、お弁当を用意する。座布団を並べたりする客席作り。そして受け付け。整理券を配ったり、当日券を販売したり、整列の呼びかけをしたり。そして、会場したら場内整理。

 まさに、「舞台で行われること以外のすべて」が、制作の仕事なわけです。
 「『大人計画』の半分は長坂でできている」と松尾スズキさんが以前おっしゃっていたそうです。まさに「観客に見えない舞台の裏半分」を支える人たちの物語。
 正直、僕が「大人計画」にもっと詳しければ、いっそう面白く読めた本だと思うのですが、「裏方」の仕事の厳しさとすばらしさを感じさせてくれる本でした。
 あと、この本で紹介されていた「大人計画の学園祭」、「大人計画フェスティバル」、ぜひ行ってみたかったなあ……
 「松尾スズキのお化け屋敷」6時間待ちとかは、さすがに耐えられそうにないけれど。

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