琥珀色の戯言

3000冊以上の【書評】と500作以上の【映画感想】を、ちゃんと読んで、観て書いてきたブログです。話題になったあの本や映画の感想が、たぶんあります。新書、ノンフィクション、インターネット関連本が多め。

大日本人 ☆☆☆

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ダウンタウン松本人志が、企画・初監督・主演を務めて撮り上げた長編映画。映画配給会社の松竹とタッグを組み、映画製作に乗り出した吉本興業の第1作目でもある本作は、松本自身の考える“ヒーロー像”を描いた異色作。脚本は松本の盟友で人気放送作家の高須光聖との共同執筆。出演は竹内力UA神木隆之介、後輩芸人でもある板尾創路。あくまでテレビの延長線上と位置づけ、面白さを追求するコンセプトで撮られた松本ワールドに注目。

 もしあなたがこの映画をこれから観るつもりならば、なるべく事前に情報を頭に入れておかないほうがいいと思います。そんなに「意外性」があるわけではないのだけれど、この先どうなるかを知っていたら面白がれない映画であることは間違いないので。ですから、未見でこれから観るつもりの方は、ここから先は読まないでくださいね。


 今週は疲れが溜まっていたとはいえ、この映画を観ながら何度あくびをしてしまったことか。客入りは土曜日のレイトショーで6割くらいと僕の地元にしてはなかなかのものだったのですけど、いや本当に「客が硬い!」。松本人志さんは劇場公開初日にそう仰っていましたが、僕が観た上映でも、笑っているのは僕の近くに座っていたおばちゃん数人のグループだけで、あとは館内は静まり返っていました。僕はもともと松本さんの「笑い」は、自分が「笑われる側」なのではないかという気がしてしまってちょっと苦手だったんですけど、帰りながら他の観客の会話をさりげなく聞いてみても、みんな「笑えない」と言い合っていました。いやなんというか、ほんとに「居心地の悪い映画」なんですよこれ。最初は、『ゆきゆきて、神軍』が始まったのかと思えば、それが『エヴァンゲリオン』になってしまうという話なんですけど、途中で挿入される祖父である4代目の介護問題とか(っていうか、変電所に行かないと巨大化できないんじゃなかったっけ?)、「大日本人」という「伝統文化」の継承問題、「北朝鮮、アメリカ批判」などの要素が全然作品内で消化されていなくて、「不快な印象を与える一発ネタの連発」みたいにしか見えませんでした。

 ただ、この映画を観て、松本さんは「ドキュメンタリー」を「この上なく胡散臭い」と思っているのだな、ということはすごく伝わってきました。友近さんも「ドキュメンタリー」の「取材者の恰好つけまくった『本音』」や「インタビュアーの大仰で抽象的な質問」「なれなれしい態度」などをネタにしていますが、この『大日本人』は、取材者が傲慢になっていくプロセスが、他のどんな要素よりも(老人介護や環境問題よりも)しっかりと描かれているのです。「ドキュメンタリー番組への皮肉」としては、けっこうよくできていたのではないかと。むしろ「ドキュメンタリー」こそ「作り話」であり、「ドキュメンタリーのほうが格上」だと本気で思ってるの?と松本さんは問いかけているのかもしれません。

 正直、「面白かった?」って聞かれれば、「全然つまんない、ってほどでもない」と答えますし、「観るべき?」って尋ねられれば、「映画ファンなら、一度くらいは観て『映画って何だろう?』と考えてみてもいいかもしれない」というような反応を僕はすると思います。要するに、「手放しでオススメはできないけど、この映画が「問題作」「話題作」であるは事実だし、流行りモノだから、観て悪口書くのもいいんじゃないか、と。
 この映画への世間のリアクションの中には、「この映画の話なら、日頃は書けない松本人志の悪口を堂々と書けて気持ちいい!」っていうものが多いですしね。
 僕は、「映画監督としての松本人志さんは『面白くない』けれど、それは、松本さんの才能が『映画向き』じゃないから」ということだけなんじゃないかと思います。北野武さんは成功しましたが、その他の「芸能人映画監督」って、まさに死屍累々なので「失敗するほうが当たり前」ではありますし。

 この映画の最大の難点は、主役が松本人志だった、ということなのではないでしょうか。本人も「本当は監督に専念したかった」なんて漏らしておられるそうなのですが、松本人志という人は「松本人志しか演じることができない」役者なのではないかと僕は思うのです。松本さんが監督だけでなく主役をやることは資金調達時に決まっていたことらしいのでどうしようもなかったのでしょうが、この映画に「驚き」があまりないのは、「いかにも松本人志がやりそうなこと」を松本人志がやってしまっている、という点が大きいのではないでしょうか。
 北野武さんは、ビートたけしという「役者」に、「ビートたけしがそれまでテレビではやってこなかったこと」を演じさせて成功しました。しかしながら、奥山和由というプロデューサーの権力と深作欣ニ監督の降板という偶然があったからこそ通ったのが『その男、凶暴につき』という企画であり、あの作品は「幸運」の産物だったのです。普通、お金を出す側が「ビートたけしに映画を撮らせる」とすれば、「もっと『ビートたけしらしい』笑える映画」を要求するはずでしょうから。
 この『大日本人』のように、「まず松本人志ありき」で「吉本興業の映画進出第1作」という「失敗が許されない状況」では、「松本人志が作りたい映画」よりも「松本人志が作りそうな映画」になってしまうのも仕方がないことでしょう。その状況で、酷評されながらも「赤字にはならないくらいの興行収入」が得られそうなのだから、やっぱり松本人志という人は凄い存在なのです。だからこそ、この映画は「叩かれる」のでしょうけどね。単館系の映画として公開されていれば、「好事家が喜ぶカルト・ムービー』として、「評価」されていたかもしれません。

 「1本の映画作品」としては、全然面白くないです。僕も観ながら、どうして『プレステージ』か『300』にしなかったんだ……と、ずっと後悔してました。
 ただ、これは確かに「松本人志にしか撮れない」「松本人志にしか撮ることが許されない」映画ではあると思います。

 でも、「普通に楽しめる映画を観たい」人には、やっぱり薦められないよなあ、全然「笑えない」し……

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