琥珀色の戯言

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新人だった! ☆☆☆☆

新人だった! (角川文庫)

新人だった! (角川文庫)

………………どこにも就職できなかった……。 大学5年生。 人生の岐路に立った原田青年を待ち受けていたのは 人よりちょっぴりイバラの道――
至るところで若気が至る! かなり笑えて時々せつない 「まだまだ青いぞ」度100%エッセイ

ベンツの運転を任されてびびり、自宅に付いた電話にはしゃぎ、 自分の名刺にときめき、何でも見透かす先輩の千里眼におののき、 自分ほど盛り上がってくれない恋人に失望--。 次から次へと訪れる困難と、めくるめくパニックに 原田青年は耐えられるのか!?

これから新人になる人、新人まっさかりの人、かつて新人だった人に!

 僕は原田さんのエッセイ大好きで、既刊のものはほとんど読んでいるのですが、最近のエッセイ集に対しては、正直「ちょっとマンネリ化している感じ」が否めませんでした。でも、この『新人だった!』には、なんだか初期の原田さんのような瑞々しさがあふれていて、すごく面白かったです。もちろん謙遜して書いているところもたくさんあるのでしょうけど(原田さんの雇い主であるコピーライターの岩永さんは、原田さんのことを「今までで最も『使える』アシスタントだった」と仰っておられたそうですし)、「何かをやろうとする希望には満ち溢れていたけれど、何をしていいのかわからなかった」どこにでもいるような大学5年生の物語。このエッセイを読んで僕が意外に感じたのは、これまであまり若い頃の恋愛の話を詳しく書かなかった原田さんが、あえて禁を破って(なのだと思います)、高校時代からずっと付き合ってきた彼女との倦怠期と別れを書かれていたことでした。たぶん、原田宗典さんという人はすごく優しい人で、そういう「優しさ」というのは、人間・原田宗典が愛される理由である一方で、作家・原田宗典が「いまひとつ突き抜けられない理由」でもあったと僕は思うのです。原田さんは、自分の作品のなかでも、昔の恋人を傷つけたくなかったのではないかなあ。ところが、今回はそういう話もかなり正直に書かれているんですよね。僕にとっては、「新人の頃って、こんな感じだったよなあ」と頷きながら笑ってしまうのと同時に、人と人とのすれ違いのせつなさ、みたいなものも感じさせてくれるエッセイだったのです。
 僕みたいに良くも悪くも「仕事馴れ」してしまった人間にとっては、「たまには初心に帰らなくっちゃ」と考えさせてくれるという意味でも、非常にすばらしい作品だと思います。

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