
- 作者: 恩田陸
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2007/04
- メディア: 文庫
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2002年2月11日(祝)午後2時過ぎ、都内郊外の大型商業施設において重大死傷事故発生。死者69名、負傷者116名。未だ事故原因を特定できず――。次々に招喚される大量の被害者、目撃者。しかし食い違う証言。店内のビデオに写っていたものは?
立ちこめた謎の臭いは? ぬいぐるみを引きながら歩いてた少女の姿は? はたして、これは事件なのか、それとも単なる事故か?
質問と答え(Q&A)だけで物語が進行する、リアルでシリアスなドラマ。謎が謎を呼ぶ“恩田陸ワールド”の真骨頂。
正直、読み始めはちょっととっつきにくいな、という印象でした。さまざまな人が語る事故の様子は、なんだか少しも「真実」に近づいていないみたいだし、そのわりには一人一人へのインタビューがちょっと冗長だし。
でも、読み進めていくうちに、この小説は「真実」を浮き彫りにしようとしているのではなくて、あるひとつの事実が、さまざまな人に与えていく「影響」を描いたものだということがわかってきました。悲惨な事故に遭うことで、「すべてが自分のせい」だと感じてしまう人もいれば、そこから生き延びたことで、「自分は選ばれた人間だ」と考える人もいる。
読み終えた時点での僕の感想は「気持ち悪い……」としか表現しようがなかったのですが、こんな作品が書ける(あるいは、書こうと思う)のは、今の日本で恩田さん以外にはいないような気がします。ミステリとしては、全く「すっきりしない話」なんですけど、まあ、作者はすっきりしない話を書こうとしているのですから、それを不満に感じるのは筋違いなのでしょう。
ただ、さまざまな人の「視点」のなかに、ちょっと都市伝説っぽいというか、あまりにリアリティに欠ける話が混じっていて、僕はそこでちょっと醒めてしまったのも事実です。この作品って、せっかくの面白い試みが、後半は「物語」にちょっと傾きすぎているのではないかなあ、と僕は少しだけ残念でした。まあ、前半部のような素っ気ないインタビューが400ページ続いたら、娯楽小説としては厳しいというのもよくわかるのですが。
それでは、これからあなたに幾つかの質問をします。ここで話したことが外に出ることはありません。質問の内容に対し、あなたが見たこと、感じたこと、知っていることについて、正直に、最後まで誠意を持って答えることを誓っていただけますか。
しかし、この小説と『夜のピクニック』と『チョコレートコスモス』を同じ人が書いているっていうのは本当に凄いことですね。