琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

パラレル ☆☆☆

パラレル (文春文庫)

パラレル (文春文庫)

妻の浮気が先か、それとも僕の失職が原因か?
ともかく僕は会社を辞め離婚した。複数の女性と付き合う友人・津田、別れてもなお連絡が来る元妻との関係を軽妙に描いた著者初の長篇。

「なべてこの世はラブとジョブ」という帯のコピーが印象的でした。
長嶋有さんは「ブルボン小林」というペンネームで『ファミ通』でゲームレビューなども書いておられて、ちょうど同世代の僕にとっては、「ファミ通」にも書けて芥川賞も獲って、なんて羨ましい人生なんだ……と妬ましく思えてしまいます。この『パラレル』には、長嶋さんならではの「ゲームファンが読んだらニヤリとしてしまうような小道具」もたくさん配されていて、僕は逆に「ゲームに興味がない御高齢の文芸評論家たちには、この本、評判悪いだろうな……」なんて余計な心配をしてしまったくらいです。

(1991年の主人公の友人・津田の部屋の描写)
 当時の津田の下宿はフローリングのワンルームで、家賃高いんだろうなあと正直に感想を述べたら「まあね」と、特に悪びれもせずにいうのだった。津田の父親は社長だという。調度は無印良品ではなかったと思う。テレビゲームが三台もあった。黒いのと、灰色のと、白くて小さいのとがスチールのラックに上手に収まっていた。それで夜通しゲームをした。

 さて、この三台が何のゲーム機だかわかりますか?

 これを読んで、僕は「黒いの」=メガドライブ、「灰色の」=スーパーファミコン、「白くて小さいの」=PCエンジン、だとわかった(って、答えが書いてあるわけじゃないです)のですが、この小説って、こういう「小道具」に興味が持てるかどうかによって、けっこう「面白さ」が変わってくるのではないかと思うのです。
 「実験的でもあるし、興味深い小説ではあるけれど、面白いかと言われると(ゲームファン以外の)他人には薦め難い」というのが僕の率直な感想なんですけど。

 ところで、これを読みながら、僕は村上春樹さんの『風の歌を聴け』を思い出していたんですよね。長嶋さんにそういう意識があったかどうかはわからないんですが、『パラレル』って、'90年代の『風の歌を聴け』なんじゃないかなあ。
 そして、この作品にひたすら漂っているモラトリアムなムードというのは、まさに、僕が体験してきた90年代そのものなのではないかという気がするのです。なんでもできる状況のはずなのに、同じところをぐるぐると回っていて出口がわからない。それでも、そうやって迷っていることになんとなく慣れてしまって、ずっとこうしているのも悪くないかな、とか、ふと考えてみたりしていた時代。
 僕はこの小説、同世代人として「わかる」だけに、なんとなく「受け入れたくない」気もするんです。もしかしたら、『風の歌を聴け』を読んだ村上春樹さんと同世代の若者たちも、そんな感じだったのかもしれません。

 この本の名コピー、『なべてこの世はラブとジョブ』なのですが、あとひとつ加えて、『なべてこの世はラブとジョブとシック(Sick)」だったら完璧だな、と思います。ものすごく語呂が悪いですが。

ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)

ぐっとくる題名 (中公新書ラクレ)

アクセスカウンター