琥珀色の戯言

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テロリストのパラソル ☆☆☆☆

テロリストのパラソル (角川文庫)

テロリストのパラソル (角川文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
アル中バーテンダーの島村は、過去を隠し二十年以上もひっそり暮らしてきたが、新宿中央公園の爆弾テロに遭遇してから生活が急転する。ヤクザの浅井、爆発で死んだ昔の恋人の娘・塔子らが次々と店を訪れた。知らぬ間に巻き込まれ犯人を捜すことになった男が見た真実とは…。史上初の第41回江戸川乱歩賞・第114回直木賞受賞作。

 「学生運動」「爆弾テロ」「アルコール依存症バーテンダー」「旧い友達」……
 この小説の冒頭部分を読んだときの僕の率直な印象は「ちょっと古くさいな……」というものでした。この小説が上梓され、江戸川乱歩賞を受賞したのが1995年。言っちゃ悪いけど、発表された年よりもはるかに昔の作品のように感じたのです。たぶん、12年前に僕がこれを読んでいたとしても、「古くさい」と感じたのではないかなあ。
 しかしながら、この『テロリストのパラソル』には、読んでいくにつれて、その世界に浸ってしまうような魅力があるのです。登場人物もストーリーも、そんなに「個性的」ではないはずなのに、なんだかものすごくハマってしまう作品なんですよね。

 彼女はタバコの煙を吐きだし、その行方を追ったあと、ふたたび視線を私に戻した。
「出頭するの」
「いや、しない」
「どうして。あなたが今度の事件に関係がないのなら、単に参考人じゃない。昔の事件はもう時効になってるのよ。母はあれは事故にちがいないと断言してたけれど」
「もちろん、昔の件では起訴できないさ。任意という名目で、警察の強制が何日にもわたって続くだけだ」
「それくらいなら耐えられるでしょ。なぜ、出頭しないの」
「抵抗がある」
「”警察は国家権力の暴力装置”だから?」
「いまはそういう感じでもない。趣味の問題という気がしないでもない」
 彼女があきれたように口を開き、私をまじまじと見つめた。
「どうかしてるんじゃないの、あなた」
「二十二年間、同じ生活をおくってきた。私の生きてきた時間の半分だ。いまさら、習慣を変える気はしない」
 彼女は無言のまま、私の上に視線を置いていたが、しばらくたって口を開いた。
「私、いったわよね。あなたみたいな種族は絶滅したって」

 ほんと、あらためて考えれば、この小説は読者が謎解きをするには発想が飛躍しすぎているし、次々と「都合のいい人物」が出てくるし、客観的にみれば「こんな損する道ばっかり選ぶヤツはいないだろ……」と「ツッコミどころ満載」なのです。でも、僕は読んでいて、この世界に浸っているのがすごく心地よく感じました。逆に、小説の中にだけは、こんな「ハードボイルドな世界」が生き残っていてもいいんじゃないかな、と思います。これを読みながら、僕はずっと『ロング・グッドバイ』を思い出していて、結局のところハードボイルドっていうのは「やせがまんの文学」なのかな、などと考えています。そして、小説の登場人物があまりに「自由奔放」な時代だからこそ、この小説には魅力があるような気がするのです。

 僕は「なんとなく古くさくて、読むと疲れそうなイメージ」があって、藤原伊織さんの生前には作品をほとんど読んでいなかったのですけど、これを機会に、藤原さんの作品をあらためて読んでみようと思っています。
 いままで「食わず嫌い」だったのか、あるいは、僕もようやく『テロリストのパラソル』の面白さがわかる年齢になったのか……

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