- 出版社/メーカー: 東宝
- 発売日: 2002/09/21
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内容(「DVD NAVIGATOR」データベースより)
高橋留美子原作のコメディアニメ劇場版が、押井守監修によりハイクオリティ映像で復活。あたるたちは学園祭を前に、泊まり込みで作業を行っているが、何日経っても学園祭の当日は訪れずに学園祭前日が続く。そしてそのことに気付く人は誰もいない…。
ラム「ウチ、ダーリンが好きなんだもん! ダーリンとお父さまやお母さまとテンちゃんや終太郎やメガネさんたちと、ずーっと、ずーーっと、楽しく暮らしていきたいっちゃ。 それが、ウチの夢だっちゃ」
しのぶ「なによ! じゃ要するに今と同じじゃない!」
ラム「だから、今とっても幸せだっちゃ! ベェ〜っ!」
なんだか、このラムとしのぶのやりとりを聞いて、僕はとてもせつなくなってしまいました。
もう10年以上も昔の話なのですが、当時好きだった女の子が僕にくれた最後の手紙に、こんなことが書いてあったにです。
わたしは、ずーっと、今のままがいいなあ、っていつも思っています。
当時の僕は、彼女のその言葉に対して、正直、ちょっと「失望」したんですよね。
そんなの「向上心がない!」って。
僕はずっと「今のままじゃいけない!」っていうコンプレックスに追われていて、でも、そのわりには、「現状から抜け出すための艱難辛苦に耐え抜けるほどの野心」もない人間なのですが、当時は今以上にそんな自分をもてあましていたのです。
医学部というところは、みんなそれなりに「向上心」がある人ばかりでしたし、僕もそんな中、ずっとずっと「もっとがんばらなくては」「自分を変えなくては」と焦っていたのです。
この『ビューティフル・ドリーマー』は、「漫画の人気キャラクターの映画」でありながら、その卓越した世界観で、押井守監督の名声を高めた「アニメ映画の金字塔」として知られています。
まあ、ちょうど同じ1984年に公開された『風の谷のナウシカ』ほど一般に認知されることはなく、好事家のなかではこれほど有名な作品にもかかわらず、現在ではゴールデンタイムにテレビ放送されることもありません。まあ、それはジブリ作品のほうが「異常」なのかもしれませんけどね。
僕はこれを観ながら、「あっ、『イノセンス』!」とか何度も押井さんの他の作品のことを思い出してしまいました。まさにこれは押井守の「原点」なのです。そして、「監督をさせてくれるというので仕方なく『ルパン3世』の監督をやった」という宮崎駿監督と同じように、押井さんもこの作品で「『うる星やつら』のキャラクターを使って、自分のやりたいことをやった」のでしょう。原作者の高橋留美子さんは、この作品に激怒しつつ、公的には「これは、(自分の作品ではなく)押井さんのすばらしい作品です」と発言していたそうなのですが、これは「宮崎駿監督に『ルパンらしくないルパン』を作られてしまったモンキー・パンチさんも同じだったのでしょうね。ただ、その後の押井作品の方向性を考えると、「いちいち観客に舞台設定を細かく説明しなくてすむ有名キャラクター」と「そのキャラクターを使うことによるさまざまな制約」こそが、この『ビューティフル・ドリーマー』を「歴史に残る傑作」にしたような気がします。
押井さんが本当に好き放題に作ると『立喰師列伝』になっちまうからなあ……
正直、『ビューティフル・ドリーマー』は、SFとしてはあまりに理論的な矛盾点が多すぎるし、『うる星やつら』としては、各キャラクターの魅力も生かしきれていないような気がします。
でも、とにかく心に染みるんですよ、この映画。少なくとも今の僕にとっては。
あの頃の僕はたぶん、「ずーっと、今のままでもいいんじゃない?」って誰かに赦してほしかったんだと思うのです。
でも、僕はそれを自分で認めるわけにはいかなかった。
そして、それを素直に口にできる彼女が、とてもうらやましくて、そして憎らしかった。
僕は彼女の一番好きなところ、すばらしいところを、軽蔑しようとしていた。
なんでこんな簡単なことが、あのときにはわからなかったのだろう?
「ずーっと、今のままでいること」
本当は、それがいちばん「夢物語」なのだということが、今の僕にはよくわかるのです。