琥珀色の戯言

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趣味は読書。 ☆☆☆☆

趣味は読書。 (ちくま文庫)

趣味は読書。 (ちくま文庫)

ふだん本を読まない人が読むからベストセラーになる。だからいわゆる「本読み」は、ベストセラーを読まずに批判する。が、それでいいのか? そう思った文芸評論家・斉藤美奈子が果敢に挑みました。
49冊を読み倒し、見つけたベストセラーの法則が6つ。読めば、抱腹絶倒。悲憤慷慨、そして世間の事情がわかってきます。文庫化に際し書き下ろしたのは『国家の品格』『東京タワー』など6篇。大増補版。

 僕は「本読み」のなかではかなり「売れている本」を好んで読んでいるほうだと自分では思っているのですが、それでも、ここで取り上げられている本のなかでちゃんと読んだことがあるのは49冊中7冊だけでした。まあ、ここで取り上げられている本の多くが「文芸書」「小説」ではなくて、「ハウツー本」や「ビジネス書」「啓蒙書」であるということもあるのでしょうけど。
 この本で、そういう「読んだことはないけど、タイトルは知っているベストセラー」を斉藤美奈子さんが容赦なくぶった斬っていくのを読むのは非常に快感でしたし、この本のすばらしいところは、斉藤さんのレビューを読むことによって、これらのベストセラーを「自分も読んだような気分になれる」ということなんですよね。そのくらい丁寧に、個々の本の内容も解説されています。あと、それぞれの本の「売り上げ部数」について、かなり丁寧に調べて数字を出して書かれているのは興味深かったです。
 この本では、各ベストセラーが斉藤さんが発見した「6つのベストセラーの法則」に準じて分類されているのですが、

1.読書の王道は現代の古老が語る「ありがたい人生訓」である
2.究極の癒し本は「寂しいお父さん」に効く物語だった
3.タレントの告白本は「意外に売れない」という事実
4.見慣れた素材、古い素材もラベルを換えればまだイケる
5.大人の本は「中学生向け」につくるとちょうどいい
6.ものすごく売れる本はゆるい、明るい、衛生無害

 ああ、まさにそうだなあ、と。
 「本読み」っていうのは、『世界の中心で、愛をさけぶ』『東京タワー』をなんであんなベタな「難病青春小説」や「闘病マザコン小説」があんなに売れたのか理解できない!」って考えてしまうのですが、実は、「そういう作品だからこそ、あんなに売れた」のです。「難しい本」「先鋭的な本」を読みたい読者なんて、実際はそんなに多くはないんですよね。

 「ベストセラーばっかり読んでいる人」は、この本を読んでも斉藤さんの「上から目線」にムカつくだけなのではないかとも思うのですが、たぶん、そういう「読者」たちは、斉藤美奈子さんの本なんて読まないんですよね。だから、結局のところ「本読み」内部でのヒソヒソ話みたいな本でもあるのですが、それはそれとして、僕には非常に面白い「ベストセラー批評」でした。

 ところで、この本って、「読んだ気になる、ベストセラーの『あらすじ大全』」みたいなタイトルにしたら、もっと売れたような気がするんですけど(って、実際にどのくらい売れたかは知りませんが)、斉藤さんって商売っ気ないよねえ。

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