琥珀色の戯言

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「ファミ通のクロスレビュー」に対するゲーム製作者の言い分


ファミ通のクロスレビュー - 飯島多紀哉の七転び八転がり - 楽天ブログ(Blog)

↑のエントリは、『アパシー 鳴神学園都市伝説探偵局』というニンテンドーDSのゲームに対するファミ通クロスレビューに対し、作者である飯島さんがコメントされているものです。

「ファミ通」クロスレビュー史(琥珀色の戯言('06/3/9))
以前、↑のエントリで書いたように、ここ数年はとくに「ファミ通レビューの劣化」が叫ばれていて、僕も「殿堂の濫発」(というか、「シルバー殿堂」なんて要るのかね本当に)や「特定有名メーカーに甘い採点」などを感じることは多いです。

しかしながら、やっぱり「ファミ通のレビュー」というのは、それなりには有用ではあるんですよね。これだけたくさんのゲーム機があって、いろんなゲームが毎週発売されてたら、そもそもどんなゲームが出ているのかすらわからないし。

飯島さんが、クリエイターとして、ファミ通のクロスレビュアーたちに、

 点数や感じたことに意見を述べるつもりはありませんが、このゲームは何度も遊ぶことにより様々なストーリー展開を味わえることを前提にシナリオを書きました。そのため、一周が二時間程度で終わるように作っています。このブログを読んだ方の中には、「一周遊べば十分じゃないの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、何周も遊んでもらうことで真実が見えてくる作品作りをしているため、一ユーザーでなくプロがレビューをされるのであれば、そういった作品の方向性を理解した上でレビューしてもらいたかったです。
 一周程度を遊んでレビューを書いたのであれば、それをきちんとレビューに載せるべきだと思います。

 と書かれている気持ちはよくわかります。そりゃあ、製作者としては、「何度も遊んでもらえることを前提に」作っているのですから、「プロのレビュアーだったら、1個エンディングを見たくらいでレビューするなよ!」って言いたくもなりますよね。

 でも、ひとりの「大人ゲーマー」である僕は、これを読んだ時点で、「何度も遊ばないと面白さがわからないようなゲームは、今の僕には向いてないな」と「見送り」の判断をしてしまうのです。飯島さんが昔作られた、『抜忍伝説』や『ラストハルマゲドン』で、マイコン少年だった僕はそれこそ脳が溶けるほど遊んだのですが、今の「ゲーム飽和状態」の世の中で、「2時間遊んだレビュアーが、5点や6点をつけるようなゲーム」を「面白くなるまでガマンして遊ぶ」というプレイヤーがどのくらいいるのでしょうか?
 今は、『買ったゲームは、クリアするまでやらないとお金がもったいないし、新しいゲームもそんなに出ない」という時代ではないのです。むしろ多くのゲーマーは「つまらないゲームに関わっているほど、俺の人生は長くない」と考えているはず。

 そもそも、『かまいたちの夜』などのサウンドノベルでは、どんなに1つのシナリオが短くでも、それが面白ければ「別の分岐が気になる」ということで総プレイ時間が延びていくのが「面白いゲーム」のはずだし。
 まあ、実際には、「最初の2時間がすごく面白いAVGやRPG」なんていうのは、ほとんど無いんですけどね。僕は『ドラゴンクエスト』の新作をやるたびに、最初のレベルが低い時期は『ドラクエ』ってこんなにつまらなかったっけ?って思うんですよ。ただし、『ドラクエ』の場合には、「でも『ドラクエ』だから、そのうち面白くなってくるはず!」と信用して続けているうちに、レベルが上がっていろんなことができるようになり、ストーリーも進行して面白くなってくるわけです。
 そういう意味では、『アパシー』が不利なのはわかりますし、レビュアーたちも「チュンソフトサウンドノベル」であれば、つまらなくても(政治的な理由もあって)やりこまざるをえないのでしょうけど、『アパシー』の場合は、「まあ、このゲームはとりあえず流しとけ」みたいな感じでレビューされている可能性もあるのかな、とは思います。

 これを書きながら考えていたのですが、『ファミ通』のクロスレビューがいま抱えている難点というのは、ひとつは「発売されるゲームの本数やバリエーションが多いことによる、個々のレビューの質の低下」で、もうひとつは、「レビュアーと一般ゲーマーとの乖離」であるように思われます。
 『ファミ通』の黎明期には、レビュアーたちは「ゲーマーの代弁者」だったのですが、今の世の中は「ヘビーゲーマー」の割合がどんどん減ってきています。多くのニンテンドーDSユーザーにとっては、長時間遊べてゲームシステムが凝っている『ASH』よりも、メインシナリオは1日あれば十分クリアできる『西村京太郎サスペンス』のほうが、「とっつきやすいゲーム」であり、「価値がある」のです。
 ところが、『ファミ通』のクロスレビュアーには、「ライトゲーマー」が参考にできる人がいないんですよね。レビュアーは昔から4人だったのだけれど、ゲーマーが「多様化」しているにもかかわらず、レビュアーは人数だけでなく、中身も「20年前とほとんど同じ」です。ゲーマーの、ゲーマーによる、ゲーマーのためのレビュー。
ゲーム雑誌だからそれでいいのかもしれませんし、多様なレビュアーによる「多角評価」を試みたゲーム雑誌(例:『TVゲーマー』)は、軒並み潰れていきましたから、「クロスレビューを読むような層は、やっぱりヘビーゲーマー」なのかもしれませんけどね。

 じゃあ、ネットでの評判を参考にすればいい、っていう人も多いのですが、僕の実感として、ネットで語る人というのはヘビーユーザーが多くて、「普通の人が普通に使う感覚」とは、やや乖離しているのではないかと。
 僕は以前、DVDを買うときに某巨大掲示板の評判を参考にしてT芝の機種を買ったのですが、確かに多機能なんですけど、当時の僕には「機能が多すぎて、かえって使い勝手が悪い」ものだったんですよね。普通にテレビをハードディスクに録画して、ときどき観るような人には、高度な編集機能なんて必要なかったのです。

 結局、「2時間遊んだけど面白くなかった」というレビューを読んだとしても、多くの人は、「もっとちゃんと時間をかけて遊べよ!」と思うより、「2時間も遊んでダメなら、見込み薄いな」と考えると思うのですが……
 今は、『ラストハルマゲドン』の時代ほど、みんなゲームにガマンして付き合ってはくれない時代なんですよね。
 製作者は「エンディングまで見てもらうこと」を前提にゲームを作っているのかもしれないけれど、遊ぶ側は、最初がつまらなければ、さっさとやめて他のゲームで遊ぼうと思うだけですよ、たぶん。

参考リンク:「観てもらえないクライマックス」(by「活字中毒R。」2005/10/28)


アパシー ~鳴神学園都市伝説探偵局~

アパシー ~鳴神学園都市伝説探偵局~

追記:しかし、自分で遊んでもいないゲームのことをここまであれこれ言及するのも失礼ですよね。発売されたら僕も実際に遊んでみるつもりです。

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