琥珀色の戯言

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窓の灯 ☆☆☆

窓の灯 (河出文庫 あ 17-1)

窓の灯 (河出文庫 あ 17-1)

出版社 / 著者からの内容紹介
大学を辞め、時に取り残されたような喫茶店で働く私。向かいの部屋の窓の中を覗くことが日課の私は、やがて夜の街を徘徊するようになり夜の闇、窓の灯、ミカド姉さんと男達……ゆるやかな官能を奏でる第42回文藝賞受賞作。

 この本のオビには、【芥川賞作家(『ひとり日和』)のデビュー作〜あの夏、私が覗き見た窓のむこうの人々】と書かれているのですが、まあ、なんというか「芥川賞作家のデビュー作」という以外には、ちょっと売りにくい(あるいは売れにくい)作品かもしれないな、と思いながら読みました。
 内容的には、表題作も併録されている『むらさきさんのパリ』も「純文学ど真ん中!」という感じの作品で、大事件が起こるわけでもなければ、エンターテインメントとして楽しめるというわけでもありません。まあ、僕はこれを読みながら、「小説っていうのは、『特別な実体験』とかがなくても書ける人には書けるものなのだな」と、少し感心してしまったのも事実なんですよね。読んでいて、「丁寧だなあ」とは思います。
 正直、ちょっと退屈な作品ではあり、表題作は「どの登場人物にも魅力があまりない」という弱点があるように思われるのです。とくに「先生」は大事なキャラクターのはずなのに、どうもフェロモン不足。『センセイの鞄』の「センセイ」なら、惹かれる女性がいるのもわかるのだけどね……
 でも、なんというか、この作品で描かれている「現代の人と人との距離感の難しさ」みたいなのは、ものすごく僕にもよくわかりますし、『美味しんぼ』風に言えば「問題提起だけではなくて、解決法の糸口も示されている」ように感じられましたので、僕はけっこうこの作品、好きです。
 そうそう、青山さんって、旅行代理店にお勤めなのだそうですが、

 今の仕事についてもうすぐ丸三年だというのに、仕事の効率がちっともあがっていない。そのくせ、年々神経質になってきている。何回目になるかわからない、発券期限と卓上カレンダーを照らし合わせる作業をして、数ヶ月先まで確認したあとにじゃあ最初からもう一度、とカレンダーをめくっている自分が、ときどき心配になる。それに、心なしか僕のカレンダーは他の人のより日に日に小さくなっているように思える。お前はビョーキか、と笑われるけれども、否定するそばから何かやり忘れたことを今にも思い出しそうな予感がちらついて、落ち着かないのだ。

 というような「旅行代理店での仕事の煮詰まり感」のリアルな描写は素晴らしいな、と思いました。
 これってたぶん、「実体験」なのだろうなあ……

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