琥珀色の戯言

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クワイエットルームにようこそ ☆☆☆


『クワイエットルームにようこそ』公式サイト

解説: 監督・俳優・作家・演出家としてマルチな才能を発揮し続ける松尾スズキが、芥川賞候補となった自身の同名小説を映画化した異色コメディー。ある日突然、精神科の閉鎖病棟に閉じ込められたバツイチライターの入院生活を描く。ヒロインには、『BEAT』以来9年ぶりの映画主演となる内田有紀。共演には、幅広い分野で活躍する宮藤官九郎、『フラガール』の蒼井優、『憑神(つきがみ)』の妻夫木聡など、人気と実力を兼ね備えた豪華キャストが顔をそろえる。(シネマトゥデイ

あらすじ: 仕事も恋愛も微妙な28歳のフリーライター明日香(内田有紀)は、ある日、目が覚めると見知らぬ部屋にいた。そこは“クワイエットルーム”と呼ばれる隔離された閉鎖病棟で、ナースから薬物とアルコールの過剰摂取により運び込まれたと説明される。さまざまな問題を抱えた患者たちと出会う中、彼女は自身を見つめ直してゆく。(シネマトゥデイ

けっこう面白い映画でした。役者・内田有紀はなかなか魅せてくれますし、蒼井優さんの暗黒っぷりや大竹しのぶさんの憎たらしさや宮藤官九郎さんの情けなさがうまく生かされていて、最後まで飽きずに観られましたし。僕がいちばん癒されたのは「ナース山岸」だったんですけど。
ただ、「飽きなかった」というのと「満足した」っていうのは、ちょっと違うんですよね。この映画の場合、僕にとってはテーマが重すぎて、笑わせようとしているのだろうな、というシーンも、どうも頬が引きつってしまうのです。実際の精神科の病棟って、もっと叙事的な空間ですし。病院の流動食に関しては、正直「患者さんには出してるけど、自分はあれ、食べられるかなあ……」とか考えてしまったのですが。
人はみんな「うっとうしい」存在なのだけれど、それでもとりあえず生きていくしかないのだ。
それは、とても切実に伝わってくる作品なのです。
でも、「うっとうしい人」に振り回される側の人生は?
僕が感情移入してしまうのは、明日香ではなくて、明日香の前夫や鉄ちゃんなんですよね。自殺未遂でクワイエットルームに入れられるのは辛いだろうし、それでも生きていかなくちゃいけないんだろうけど、そういう「魅力的なんだけど、うっとうしい人」に魅入られてしまった人は、どうすればいい?
こういう「人格的な傾向」がちょっとしたきっかけで「治る」ほど甘いものじゃないのですよね。そして、松尾さんはそれを百も承知でこの作品を作っています。あの救急車のシーン、僕は全然笑えない。笑わせようとしているのなら松尾さんは残酷だし、絶望させようとしているのならあまりに救いようがない……明日香は、あの入院患者たちのなかで「特別」だと思う?

この作品の場合、演じている役者さんたちの「現実」の一部が「役柄」とシンクロしているというのは、興味深いのと同時に、かえって雑念の元になっているような気もするんですよね。松尾さん自身がうつで闘病されていたこともあるし、内田有紀さんの「バツイチ」という設定なんてとくに。
悪い作品じゃないんですが、僕は笑うことも泣くこともなく、ただ、「こういうもんなんだろうな」と感じただけでした。

 それにしても、あの松尾スズキさんでも、「自分は『面白くない国の住人』ではないのか?」という恐怖に駆られることがあるのかな……
 傍からみていると、『面白い国の住人』だとしか思えないのだけれども……
 人っていうのは、みんなそれぞれ「自分自身にしかわからない病」を抱えているのかもしれません。

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