琥珀色の戯言

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裁判長!これで執行猶予は甘くないすか ☆☆☆

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか

裁判長!これで執行猶予は甘くないすか

■内容紹介■(文藝春秋のサイトより)
一度傍聴したら、もうやめられない! 通いはじめて早四年、窃盗、詐欺から連続殺人まで。法廷はいつでもドラマに満ちている

裁判を傍聴するなんて、自分には一生縁がないと思ってはいませんか。
ところが、ひとたび本書を読むと、法廷がワイドショーや映画も顔負けの人生劇場に早がわり、つい傍聴してみたくなるはずです。窃盗、詐欺、強制わいせつ、殺人……。法廷で追い詰められた被告人たちはどんな言動をとるのか。その顔つきから、服装、話し方、しぐさ、思わず笑ってしまう弁明まで、独特のイラストとともに描く北尾さんの観察眼が冴えわたります。
好奇心から覗いてこそはじめてみえる人間の本性とは――。裁判員制度導入が決まったいまこそ、必読の傍聴記です。

僕は北尾トロさんの「実録モノ」「突撃体験レポート」が大好きで、前作の『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』で北尾さんが注目されてきたときには「ようやく来たか!」という気分だったのです。前作は、僕が昔弁護士に憧れていたこともあり、かなり興味深く読めたんですよね。

でも、この『裁判長!これで執行猶予は甘くないすか』に関しては、けっしてつまらなくはないのだけれども、なんだかちょっと嫌な感じがするところが多かったのも事実です。今までの北尾さんの作品には、常に「北尾さん自身にも何か危険なことが起こるのではないか?」と読んでいてドキドキする場面がたくさんあったのですが、この「裁判傍聴シリーズ」では、当然そんなことはないですしね。
安全なところから、「上から目線で書いている」という感じがどうしてもしてしまいます。

僕はこの本で描かれている「情けない犯罪者」たちにはあまり同情も共感もできないのですが、「傍観者」である北尾さんにこうして取り上げられている事件の被害者やその関係者に対しては、「こんなふうに『傍聴』されるのってイヤじゃないのかなあ」と想像してしまうんです。いや、そのあたりは北尾さんも気をつけて書かれていますし、「北尾さんに傍聴に来て欲しい」なんていうメールが来たりもしているらしいのですが、もしそれが「犯人を批難する内容」であったとしても、こんなふうに興味本位で傍聴マニアたちに傍聴され、雑誌や本に書かれるというのは、被害者にとってはけっして「嬉しいこと」ではないと思うのです。
……とか言いながら、結局のところ、この本を「面白く読んでしまう」僕のような読者がいるかぎりは、シリーズは続いていくのでしょうけど……

ぼくを裁判所に通わせるものは、事件の持つ話題性ではない。被告人のみならず、裁判官、弁護人、検察官、証人など、法廷に登場する人物すべてが見せる、どうしようもない人間臭さなのだと思う。
傍観者として見ていたはずの事件が、詳細を知るにつれて他人事とは思えなくなり、被告人の姿を自分に置き換えてしまうこともよくある。被害者の気持ち、関係者の憎しみや悲しみについても同じだ。
なぜ傍聴するのかと尋ねられると「おもしろいから」と答えるのだが、その中には一言では表現できないさまざまな要素が含まれている。
「リアルだよなあ」
この言葉を何度、心の中で呟いたことか。

裁判員制度」も、もうすぐスタートしますし、周防正行監督も『それでもボクはやってない』で痴漢冤罪事件を取り上げるなど、「裁判」についての関心があらためて高まっている昨今なのですが、こうして「被害者や関係者の憎しみや悲しみを興味本位で広く世の中に伝えること」には、やはり問題があるのではないかなあ、という気もするのです。「伝えなきゃみんなにはわからないだろ!」というのと、「そうやって取り上げることは、いわゆる『セカンドレイプ』なのではないか?」というのと。
たしかに、裁判は「どうしようもない人間臭さ」を感じさせてくれる場なのでしょうけど、「人間臭さを感じるために裁判を傍聴に行く」というのって、どうなんだろう?


北尾トロさんの著作としては、僕は↓をまずオススメします。

キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか (幻冬舎文庫)

キミは他人に鼻毛が出てますよと言えるか (幻冬舎文庫)


裁判傍聴の著作としては、著者が「すれてない」分だけ、↓のほうが良かった気がします。

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)

裁判長!ここは懲役4年でどうすか (文春文庫)


裁判の話であることはさておき、今年の僕のベスト1映画です。

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

それでもボクはやってない スタンダード・エディション [DVD]

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