- 出版社/メーカー: デスペラード
- 発売日: 2008/01/25
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大学入学のために仙台へ引っ越してきた椎名。新居の片づけをしていると、同じアパートの河崎と名乗る男が声をかけてきた。口ずさんでいたボブ・デュランの曲に興味を持ったらしい。しかし、彼は初対面の椎名に、同じアパートに住むブータン人のドルジという青年に広辞苑を盗んでプレゼントしたいから「本屋を襲わないか?」と誘う。ドルジは河崎の元彼女の琴美と付き合っていたらしい。また買うのではなく盗むのが大切だと奇妙なことを言う河崎。 椎名は逃げ腰だったが河崎の巧みな話術にのり、気づいたら本屋襲撃に加担していた!
伊坂幸太郎の人気小説を映画化。本屋襲撃の裏に隠された、河崎、琴美、ドルジの不思議な友情、かつて彼らの住む街を荒らしていたペット殺し事件のエピソード、これらには巧妙な伏線が張られており、それは原作も同様。ただ原作では映像化不可能なトリックがあり、これをどう映画で描くのかが、原作ファンの興味の焦点だったが、これを中村義洋監督はうまく料理した。見るものに目の前の世界を信じさせる巧妙な演出は絶妙で、役者もよかった。特に主演の瑛太(河崎役)と濱田岳(椎名役)は見事なものだ。読んでから見ても、見てから読んでも味わい深い本作。青春ミステリーの傑作として語り継がれる作品になるだろう。(斎藤香)
この映画、本当に良かったです。正直、「例のトリック」を映像でどう見せるのだろう?と非常に疑問であり、その点に関しては、かなり消化不良な印象は残るのですけど(というか、「観る側に謎解きをさせるミステリ」としては「反則」ですよねこれは)、この映画のスタッフは、原作のことをよく理解していて、「映像的にそれらしく見せること」ではなくて、その「世界観」を映像化することにこだわったのではないかと思います。あのトリックをうまく料理した、というよりは、あのトリックは、あくまでも『アヒルと鴨のコインロッカー』という小説の「演出」のひとつでしかないのだ、ということをあらためて感じさせられました。
こうして映像化されたものをあらためて観てみると、原作は本当に「張った伏線をきちんと消化している小説」であることにも驚かされます。
上のAmazonのレビューでも触れられているのですが、主演の瑛太(河崎役)さんと濱田岳(椎名役)さんも素晴らしかったですし、仙台の街の風景や「大学に入っての初めての一人暮らし」の緊張感と期待感みたいなものもすごく伝わってきました。
そして、なんといってもこの映画の主役は、ボブ・ディランの『風に吹かれて』。この曲が実際に流れているというだけで、この映画は確実に、「小説よりもさらに伊坂幸太郎さんが描きたかった世界に忠実に」なっているような気がします。僕もこの映画を観終えてからしばらく、『風に吹かれて』をいつの間にか口ずさんでいましたし。
小説を読んだときには、「なまぬるさ」を感じたり、「この主人公たちの行動って、ちょっとおかしくない?」と疑問だったりして、けっこう不満なところもあったのですけど、この映画は本当に「原作を説教臭く感じた人」にこそ、観てもらいたいなあ、と思うのです。楽しいことが起こるわけでもなく、残るのはただ「せつなさ」だけなのに、どうしてこんなに「観てよかった……」と感じてしまうのか、僕にもよくわからないんですけどね。