琥珀色の戯言

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アメリカン・ギャングスター ☆☆☆☆

『アメリカン・ギャングスター』公式サイト

解説: 1970年代のニューヨークを舞台に実在した伝説のギャング、フランク・ルーカスの半生を描く犯罪サスペンス。『グラディエーター』の名匠、リドリー・スコット監督がメガホンを取り、しがない運転手から麻薬王にまで上りつめた男の一代記を骨太に描く。主演はオスカー俳優のデンゼル・ワシントン。彼を追う刑事を同じくオスカー俳優のラッセル・クロウが演じる。型破りなギャングスターの知られざる実像、多くの有名アーティストによるゲスト出演などに注目。(シネマトゥデイ

あらすじ: 1970年代の初頭のニューヨークで、ハーレムを牛耳っているギャングのボスの運転手をしていたフランク・ルーカス(デンゼル・ワシントン)は、ボスの亡き後、東南アジアの麻薬を密輸する計画を決行する。時に横暴ともいえる強引なやり方で財力をつけたフランクは、マフィアにも一目置かれる麻薬王として街に君臨する。(シネマトゥデイ)。

 2時間半を超える、かなり長い映画なのですが、観終わって時計を見ると、「もうそんなに時間経ったのか……」という感じでした。
 いかにも「映画らしい映画」ですし、ノンフィクション・史劇好きの僕にとっては、「真実に基づく物語」ということでとても興味深かったです。
 良質の商品を原産地で買い付けてアメリカで安値で売りさばくという「お客様本位の商売」でビジネスを成功させ、家族を大事にし、貧しきものたちには施しをし、日曜日には教会に行くことを忘れない黒人実業家フランク・ルーカス(ただし、彼の商品は「ヘロイン」で、敵に対しては容赦がありません)と、仕事以外の私生活ではだらしないことこの上なく、息子の親権を争うために行った裁判所で、担当の女性弁護士とファックしてしまうような麻薬捜査官リッチー・ロバーツ(彼はユダヤ系で、そのことを揶揄する言葉を作中で何度か浴びせられます)。
 この2人の対決を描いた映画なのですが、僕はこれを観ながら、「正義っていったい何なのだろうな?」ということをずっと考えていました。もちろん、フランクがやっていることは「悪いこと」なのですけど、確かに「じゃあ、それ以外の方法で、彼は『成功』することができたのだろうか?」とも思うんですよね。
 そして、当時の「賄賂を貰うのが当たり前」の麻薬捜査官のなかで、清廉を貫いたリッチーは、確かにものすごく「カッコいい」人物なのですが、考えようによっては、「ネコババしても咎められない100万ドルを警察に届ける」ような行動や同僚にも容赦しないやり方は、ある種「偏執的」にもみえるんですよね。
 「麻薬王」と「取締官」としては、まさに「悪と正義」なのですが、身近な人としてみれば「理想的な人物」と「人格破綻者」。
 このふたりは、正反対の人物のように見えるけれど、二人の立場が入れ替わっていたら、フランクは有能な麻薬捜査官だったでしょうし、リッチーは歴史に名を残す麻薬王になっていたかもしれません。彼らは、「正義」や「悪」という観念を求めるというよりは、「自分がなれるもの、なるべきもの」の理想像とひたすら目指しているように見えますし、「麻薬を売る」とか「麻薬を取り締まる」なんていうのは、彼らにとっては、ひとつの「手段」でしかないような気がするんですよね。
 彼らが、「黒人」「ユダヤ人」ということもあって、『アンタッチャブル』のような正統派の「正義と悪の対決」というよりは、「アメリカという社会を見返そうとした2人のマイノリティの物語」のようにも僕には感じられました。
 それにしても、こんなに「重い」テーマで、「偏った」人物たちのはずなのに、どちらにもしっかり感情移入させられてしまう映画で、やっぱりリドリー・スコット監督は凄いなあ、観てよかったなあ、と素直に思いました。別に泣けるとか感動させられるとかものすごく考えさせられる映画じゃないんですけど、エンターテインメントとして素晴らしくて、プラスアルファがある作品です。
 こういう「ギャングもの」に抵抗がない方にはお薦めの、まさに「骨太」なエンターテインメント映画。

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