琥珀色の戯言

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ゴールデンスランバー ☆☆☆


ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

冴えわたる伏線、印象深い会話、時間を操る構成力……すべての要素が最強の、伊坂小説の集大成!!

仙台での凱旋パレード中、突如爆発が起こり、新首相が死亡した。同じ頃、元宅配ドライバーの青柳は、旧友に「大きな謀略に巻き込まれているから逃げろ」と促される。折しも現れた警官は、あっさりと拳銃を発砲した。どうやら、首相暗殺犯の濡れ衣を着せられているようだ。この巨大な陰謀から、果たして逃げ切ることはできるのか? 

 「ひとり本屋大賞」5冊目。
 いろんな意味で、「力作」であり、「伊坂幸太郎作品の集大成」だと思います。
 最初の導入部がやや冗長な印象で、夜少し読んではすぐに眠くなり、という感じてけっこう読み終えるのに時間がかかってしまったのですが、第3部くらいからはかなりのめりこんで読んでしまいました。

 ただ、率直なところ、「面白いんだけど、ちょっと鼻につく」というか、エンターテインメント作品に徹した(と伊坂さん自身は仰っておられるのですが)にしては、あまりに「政治」とか「マスコミ」に関する伊坂さんの主観が反映されすぎている気がしましたし、主人公のピンチに、あまりにいいタイミングで「助っ人」が登場するなど(ほんと、この物語に出てくる人たちは「主人公の味方をしてくれる人」ばっかりなんですよ、まあ、このストーリーの状況では、そうでもないとどうしようもないのでしょうけど、僕はちょっとしらけました)、かなり「ご都合主義」にも思えたんですよね。

 伊坂さんらしい伏線の消化のしかたは「さすが!」としか言いようがないのですが、その一方で、「お決まりの伊坂パターン」に陥ってしまっているようにも思えましたし。
 僕だって政治家や警察やマスコミに好感を抱いているわけではないですが、結局のところこの物語というのは、「あまりにも消化不良」でした。読者として、カタルシスを感じられるような場面がほとんど無かったんだよなあ。伊坂作品らしい「印象的な登場人物」もいなかったし……この物語が「普通の人」vs「巨大な目に見えない権力」だったので、しょうがなかったのかもしれませんが……

 伊坂さんの「反権力」「ちょっとひねくれた青春」「伏線がちりばめられたミステリ」という3本柱がうまく配されている作品ではあるのですが、正直、この長さの本でこの内容というのは、ちょっと物足りない印象です。なんというか『魔王』をつまらなくしている調味料(伊坂さんの「政治」や「マスコミ」に対する信条)を今回も入れすぎてしまっているなあ……と。

 純粋に「面白い本」だし、「大作」であることは間違いないのですが、「集大成」であるのと同時に、現在伊坂さんが嵌っている「袋小路」を痛感させられる作品のような気がしました。
 個人的には、今回の『本屋大賞』の本命に推していたのですが、うーん、読むのにかかる時間に比べると、ちょっと割に合わないかも……

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