琥珀色の戯言

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カシオペアの丘で ☆☆☆


カシオペアの丘で(上)

カシオペアの丘で(上)

カシオペアの丘で(下)

カシオペアの丘で(下)

[要旨]
肺の腫瘍は、やはり悪性だった―。40歳を目前にして人生の「終わり」を突きつけられたその日、俊介はテレビ画面に、いまは遊園地になったふるさとの丘を見つける。封印していた記憶が突然甦る。僕は何かに導かれているのだろうか…。『流星ワゴン』『その日のまえに』、そして―魂を刻み込んだ、3年ぶりの長篇小説。

[出版社商品紹介]
余命を告げられた病院の待合室で見たテレビに映った風景が、4人の幼なじみを30年ぶりの再会へと導いた。人と、町と、「ゆるし」をテーマに描く。

 「ひとり本屋大賞」8冊目。
 ああ、重松清さんだなあ、という作品です。
 まだ40歳目前という若さで癌に侵され、捨てたはずの故郷や幼なじみたちに引き寄せられるように再会する主人公(というか、この物語は、「4人の幼なじみ」それぞれが主役ではあるんですけどね)の姿に、ちょっとだけ年下の僕は、やっぱり泣いてしまいました。

 ただ、この小説を読んでいると、「重松さん相変わらず巧いなあ」というような、ちょっと穿った気分になったのも事実なんですよね。
『流星ワゴン』『その日の前に』と、重松さんは、「家族愛」と「死」についての作品を書かれており、どちらも「感動的」な小説ではあるのですが、僕は『流星ワゴン』のほうが好きだったんですよね。なんでかというと、『流星ワゴン』は、「物語として面白くて、この先どうなるんだろう、とワクワクするような気分になれた」から。
 そして、『その日の前に』から、この『カシオペアの丘で』への重松さんの変化は、僕にとっては、正直あまり好ましくないほうに向かっているように思えたのです。なんかね、小説としての面白さがどんどん失われて、「重松清、人生を語る」みたいになってきているんですよね。癌の症状についての描写なんかはすごくリアルに思えるし、心理描写もすごいなあ、としか言いようがないのだけれど、その一方で、ちょっとおせっかいな登場人物が多すぎる小説だなあ、と苛立つ場面も多かったのです。僕の実感として、「病気」っていうのは、もっとプライベートなものだし、川原さんやミウさんの介入に対しては、「人の死に群がって、自分が救われようとするなよ……」としか思えないのです。
 人は、ゆるされたり、誰かを救ったりするために「死ぬ」わけじゃないだろう、それは「神の死にかた」じゃないのか?と。

 そういうのって、こういうときにここまで力になってくれる「幼なじみ」がおらず、転勤族で帰るべき「故郷」を持たない僕の僻みなのかもしれないけれど、なんというか、この作品の舞台設定って、ちょっとわざとらしいというか、あまりにも「できすぎ」なのではないかなあ。
 『タッチ』を読んで、「あんな完璧な女の子と幼なじみなんてヤツいねーよ!」と呪いの言葉を吐きながら大人になった僕にとっては、この小説の「友人愛と家族愛と故郷愛の美しさ」というのは、あまりにも緻密に描かれているだけに、なんだかちょっと拒絶反応があるんですよ。いや、もしこの作品がはじめての重松清体験であれば、たぶん素直に感動できるのでしょうけど、僕自身は、こういう「読んだ人を泣かせ、その涙で救われた気分にするためだけに存在するような小説」に、ちょっと飽きてきているということもあって。

「忘れっぽいひとって、優しいひとなんですよね」
 あ、逆かな、優しいから忘れっぽくなるのかな、と首をかしげてつぶやき、「だって、そうじゃないですか」とわたしに向き直る。
「ゆるしたことって、覚えてないでしょ。ゆるさなかったことは、やっぱり忘れないじゃないですか。だから、ひとをゆるすってことは、忘れるってことなんだと思うんですよ」
「そう……なのかな」
「よくわかんないけど、なんか、そんな気がしちゃって」
 ミウさんは話をまた倉田千太郎のことに戻した。
「で、自分がゆるされちゃいけないんだと思うひとは、自分のやったことをみんなが忘れないように……たとえば、北都観音なんか建てちゃうわけですよ」
 だから――。
「わたしは、北都観音を建てたクラセンさんが好きです。あんなもの建てなければ、もっと早く事故のことをみんなに忘れてもらえたのに、わざわざ、よけいなことしちゃって」
「でも、ゆるされたかったんでしょ?」
「そうですよ。だって、自分はゆるされないことをしてしまったんだとわかってるひとが、ほんとうはいちばんゆるされたいと思ってるのって、あたりまえじゃないですか」

 僕にとっては、この小説の登場人物のなかに「本当にゆるされるべきではないことをしてしまった人」は、ひとりもいませんでした。
 ただ、僕自身の抱えている「ゆるせないこと」「自分がゆるされないと思っていること」も、他人からみれば、たぶんそういうものなのかおしれないな、という気もします。
 「死」というものの「まがまがしい圧倒的な力」を感じてしまうのと同時に、どうして人は「死」というものを目の当たりにしないと、寛容になれないのか?とも思うのです。その疑問が自分自身に向けられたら……僕自身もやはり「ゆるさないし、ゆるされない」まま、年を重ねてばかりなのですけどね。
 もちろん「悪くはない作品」なのですが、かなり「読んでいてしらけてしまう部分」も多かったので、☆3つ。
 とりあえず、重松作品を読むのであれば、文庫化されている『流星ワゴン』のほうを入門篇としてお薦めしておきます。

流星ワゴン (講談社文庫)

流星ワゴン (講談社文庫)

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