琥珀色の戯言

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【読書感想】インシテミル ☆☆☆☆☆

インシテミル (文春文庫)

インシテミル (文春文庫)


KIndle版もあります。

インシテミル (文春文庫)

インシテミル (文春文庫)

■内容紹介■ (『文藝春秋書誌ファイル』より)
バイト雑誌を立ち読みしていたビンボー大学生・結城は、ひとりの少女から声をかけられて……。この夏、鮮烈なミステリーがはじまる。

結城理久彦は、車がほしかった。須和名祥子は、「滞って」いた。
オカネが欲しいふたりは、時給11万2000円也の怪しげな実験モニターに応募。こうして集まった12人の被験者たちは、館の地階に7日間、閉じ込められることに。
さて。あとはご想像どおりミステリーの定法に則って、ひとり、またひとりと謎の死を遂げていくわけです、が……。

 僕はもともとそんなに熱心な「ミステリ読者」ではないので、『このミス』にランキングされるようなミステリは年に数冊しか読まないのですが、この『インシテミル』は、なんだかとても気になって購入したまま積みっぱなしになっていたんですよね。
 今日、なんとなく読み始めたら、止められずに結局最後まで読んでしまったのですが、この本、面白いよ本当に。

 内容としては、古今の名作ミステリを知っているとちょっと楽しめるような小ネタ満載の「クローズドサークルもの」(外部と完全に遮断された空間を舞台にしたもの)なのですが、この作品のすごいところって、ある種の「背景のリアリティ」とか「動機」みたいなものを限りなくサラッと無視して、「とにかくそこに密室がある!12人の人間がいる!そして、「事件」が起こる!」ということなんですよね。
 昨今のミステリで流行の「警察小説」では、リアリティを増すために、警察という組織そのものが綿密に描かれているのですが、僕は正直、そういう「背景を理解するだけで疲れる小説」に、最近食傷気味でした。
 そんな中、この『インシテミル』は、まず、「リアリティ」が必要ない状況を創り出し、その中で「今夜は、そして明日は何が起こるんだろう……」という興味で読者をグイグイと引っ張っていくのです。
 内容的には、『かまいたちの夜(パート1)』の設定を複雑にしたものを、主人公になって体験していくような感じです。

 僕はこの作品を読みながら、もうちょっと自分にミステリの知識があれば、もっと面白く読めたのになあ、と残念な気もしたんですよね。

 結城の気を昂ぶらせたのは、<暗鬼館>の入り口が閉ざされたことだけではなかった。
 飴色の円卓の上には、これも円陣を組んで、人形が置かれている。赤い顔に、鳥の羽飾り。ネイティブアメリカンの人形だ。数えるまでもないと思いながら、それでも目で数えていく。やはり、十二体。

 なんて光景には、やはりちょっとニヤリとしながら、「じゃあ、アイツが犯人?」とか考えてしまうわけですが、米澤さんが造ったこの「暗鬼館」は、そんな読者の微笑みを見透かしたように、僕の予想をスルリとかわしていきました。

 いや、米澤さんのファンの人には怒られるかもしれないけれど、僕はこの作品が、「人物描写のディテールにこだわらない」「『感動させよう、泣かせよう』というよりも、ひたすらクローズドサークル内での『パズル』としての完成度を追及している」ものであることを好ましく感じています。
 「人が殺される話」だし、けっこう残酷な描写もあるのだけれど、基本にあるのは、「ミステリは『泣かせる』ためのものじゃなくて、ストーリー展開の面白さとトリックの奇抜さを楽しませるもの」だという米澤さんのポリシーだと思ったし。

 まあ、某文学賞の審査員が読んだら、真っ先に「人間が描けていない」って罵倒されそうではあるんですけどね。
 最初の事件のこととか、伏線っぽく見えて回収されていないことが多いこと、そしてこの物語の「結末」に関しては、100%満足、とはいかないのですが、とにかく「滅法面白い作品」ではありました。当直中に読む本は、面白さ5割増しくらいに感じることが多いけれども、それを差し引いても、久々に寝食を忘れてミステリを読んだ気がします。
 「面白くて説教くさくないミステリが読みたい人」「『かまいたちの夜(1)』に夢中になった人」には、とくに強くオススメ。
 かなりページ数も多いし(450ページくらい)、オビの「時代を変える1000枚!」の「1000枚」にしりごみしてしまう人も少なくないと思われますが、本当にその「長さ」を忘れて没頭できる傑作です。

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