琥珀色の戯言

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恋空 ☆☆☆


恋 空 スタンダード・エディション [DVD]

恋 空 スタンダード・エディション [DVD]

原作:美嘉/監督:今井夏木/出演:新垣結衣/出演:三浦春馬/出演:小出恵介/脚本:渡邉睦月

1600万人が涙したケータイ小説を、人気若手女優・新垣結衣主演で映画化!ごく普通の高校1年生・美嘉はふとしたきっかけで同級生のヒロと付き合いはじめる。さまざまな悲劇が襲いかかるが、障害を乗り越えた二人の絆は一層強いものになっていく。しかし高校2年の春、美嘉はヒロに別れを告げられ…。特典ディスク付きの2枚組プレミアム・エディション。(2007/日本)


 すみません、ネタバレ全開なので、これから観る予定のかたは、実際に作品を観てからこの続きをどうぞ。

 基本的に「まともな恋愛映画」を観たいという大人にはオススメしません。ネタをネタとして消化できる人向けかも。

 この後は本当にネタバレですよ。

 いや、最初から「どう突っ込んでやろうか」と思いながら観ていたのですが、最初の15分くらいの「普通の地味目女子高生」を演じていた新垣結衣ちゃんはかわいかったので、ついつい許してしまいそうになりました。
 しかしながら、その後の展開があまりに酷くて観ていてひたすら腹が立ってくるんですよこの映画。
 主人公・美嘉の携帯を拾った(盗んだ?)ヒロは、いきなり美嘉の携帯のメモリを全部消し、「お前にとって必要な人間は、向こうからかけてくるだろ」と言い放ち、どうみても携帯電話ストーカーとしか思えない男に、なぜか惹かれていく美嘉。ありえないだろそれ。
 自分があの電話の相手だと招待を明かしたとき、道端の花を摘んで「誕生日プレゼント!」と美嘉に渡そうとしたら、「お花がかわいそう!」と拒絶されたヒロ。次の場面では、美嘉の帰りを見計らって、わざとらしく花壇に花を植えてみせるのです。その姿を観て、ヒロは本当はいい人なんだと勘違いする美嘉。「そんなあからさまなバカ男のナンパテクニックに引っかかるなよ新垣!」と僕はもうヒートアップしっぱなしです。そんなに花が好きなら、人知れずこっそりやれよエロザル。
 そして、付き合い始めた2人なのですが、いきなり授業をサボるように指示された美嘉は、「お弁当食べよう」とヒロの部屋に連れ込まれ、いきなりファーストキス&処女喪失。もう、この女のバカさ加減には呆れ果てますし、男のほうも、いきなり連れ込んで避妊具なしでセックスなんて信じられん。愛とか恋じゃなくて、ただ、さっさとやりたいだけの最低野郎にしか見えないって。

 さらに、嫉妬したヒロの前カノの指示で、美嘉はヤンキー連中にお花畑でレイプされます。
 いや、すぐにケータイ鳴らすだろあのシチュエーション。
 前カノ、サキの仕業とわかったヒロは、実行犯たちをボコボコにし、サキを家に連れてきて引き据え、美嘉に尋ねます。
「美嘉、こいつ、どうしてほしい?お前が殺せって言うなら殺すぞ」
 もう、「仁義無き戦い」って感じ。こんな連中に関わることそのものがアンビリーバブル!
 答えられない美嘉に、ヒロのお姉さんは、サキの髪を切って放免。ええっ、女子プロレスの試合かこれ?レイプを主導した女へのペナルティが「髪切り」だけ?せめて半殺しにするか警察に突き出すだろ普通。恐るべしヤンキールール。でも、そういうヤンキールールにいつのまにか取り込まれてしまっている美嘉。

 妊娠が発覚した美嘉、喜ぶヒロ。ヒロはいきなり髪を黒く染めて美嘉の家に挨拶に。それであっさり黒く染めるくらいのポリシーしか持たずに、どうみても校則違反間違いなしのあんな髪型してたのかよお前。
 そして、サキに突き飛ばされて美嘉が病院に運び込まれ、手当てを受けているあいだ、どこかに行っていたヒロ。
 どこに行っていたのかと思えば、「お祈りしてた」と「安産お守り」を手に登場します。
 どこの「ゆとり」だお前。現実逃避してんじゃねえよ。そういうとき、傍にいてあげるべきだろ。
 子供は流産。たぶん、観客の多くは、「しかし、もしその子が産まれてたら、悲惨な人生だったろうな……」と思ったはずです。この二人、本当にノーフューチャーバカップルだからねえ。

 癌が発覚したあと、ヒロは、「美嘉に心配をかけないために」美嘉と別れようとします。
 ところが、その方法が、「怪しげなパーティを開いて、そこで他の女とキスしているところを美嘉に見せつける」。
 いや、病気で相手に負担をかけたくないなら、ちゃんと話をするのが筋ってものだろ……そんな相手を必要以上に傷つけるような別れ方をわざわざチョイスするなんて、自分に酔っているようにしか見えん……

 父親の会社が傾いて、家族離散しそうなときに、一生懸命家族の写真を貼り合せる美嘉と新しい真面目大学生のカレ。まさに「余計なお世話」です。そもそも、この平和でハイソっぽい一家がバラバラになっていったのは、娘・美嘉のあまりに奔放な生き様の影響が大きいはず。御近所にもさんざん噂されているでしょうし、学校に呼び出されたりもしているはず。もともとが「良い子」っぽいだけに、家族が受けた傷は「もともとそういう環境」だったヒロの家族とは比べ物にならないはずです。にもかかわらず、自分の責任を無視して、他の家族にばかり仲良くすることを求めるなんて、あまりにワガママだとしか思えません。一度ああなったら、そう簡単にリセットできるようなもんじゃないってば。
 この新しい恋人もまた、妙にものわかりが良くて気持ち悪いしねえ。

 しかし、この映画での美嘉の選択肢を観ていると、「人は、こうして間違った選択を繰り返していくのだなあ」ということがすごくよくわかります。真面目で普通の女の子が堕ちていくにはどういう行動をとればいいのかが一目瞭然。そういう意味では、すごく「教育的効果」がありそうです。これほど、「なぜそっちを選ぶ!」という愚かな選択を繰り返し、その結果をきっちり見せてくれる映画ってあんまりないですよ。

 まあ、結局ヒロはガン(たぶん白血病)で死んでしまうのですが、僕は正直「大脳新皮質のかけらもないセックス猿にバチが当たってせいせいした!」としか思えませんでした。で、ラストで美嘉は家族に温かく迎えられるのですが、どんな能天気な家族なんだよそれ。

 それにしても、「お前、そんな男にあっさり騙されるなよ!」「避妊しろよ!」「この事態に病院を抜け出してやることがそれか?」など、まさにツッコミどころ満載。もし自分の子供がこんなのだったら、座敷牢に入れてしまいたい。今、僕の手元に「ちきゅうはかいばくだん」のスイッチが無くて、本当によかった。バカで自分勝手でセックスしたいだけのサル男子高校生と雰囲気に流されて自分に酔っているだけのマゾ女子高校生による、大脳新皮質が死滅しきった「純愛」ドラマ。こんなのに同世代の男女が「共感」してたら本当に怖い。
 たぶん、実際は『大家族スペシャル』を観て、「家族の絆ってすばらしいなあ」と白々しく口にしながら、内心「こいつらセックスしか娯楽がないのかよ、DQNの拡大再生産!」と思っていた僕のような「観客」がたくさんいたのではないかと思います。でも興行収入40億円の大ヒット。

 いや、新垣結衣ちゃんはかわいいですよ。でも、これだけセックス描写満載のわりには、新垣さんの露出は皆無。キスシーンですら、唇が触れ合う場面もありません。事務所がかなり厳しく制限したのだなあ、としみじみと感じさせてくれます。
 あと、ミスチルの主題歌『旅立ちの唄』はいいです。この歌を最後に聞いていると、なんとなく「いい映画」を観ていたような勘違いをしてしまうところが凄い。

 でも、「ものすごくつまらないか?」と問われると、あの『ラストラブ』とか『アジアンタムブルー』みたいな「つまらなさすぎてネタにもならない」というレベルではなく、「興味がある人は、話の種に一度観てみるのもいいかもしれない」という気もするんですよね。
 「つまらない」「話にならない」「眠くなる」映画は数あれど、これほど「観ていて腹が立つ」映画って、めったにないからさ。

 30代半ば男としては、心の底から、この作品が「憧れ」ではなくて「ネタ」として消費されていることを願ってやみません。

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