- 作者: 川上弘美
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/04/02
- メディア: 単行本
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夫に恋人がいた。離婚をほのめかされた。わたしはいったい、どう、したいんだろう―。夫婦の間に立ちこめる、微妙なざわめき。途方に暮れながらも、自分と向き合い、夫と向き合い、少しずつ前へ進みはじめた、のゆり、33歳の物語。
川上弘美さんの新刊。僕はこの本の前半を読みながら、なんかかったるい小説だなあ、読むのめんどくさくなってきたなあ……と何度か本を閉じ、そのうち一度は昼寝までしてしまいました。
その一方で、川上さんというのは、こういう「尋常ならざる事態における人間の日常生活」を描くのがものすごく上手い、ということをあらためて思い知らされもしたのですが。
そして、相変わらず川上さんが描く「食べる」シーンは素晴らしいです。
夫の浮気相手の女性との豪華なんだけど空疎な高級中華料理店での食事の場面とか、のゆりと卓哉がおでん屋で食事をする場面を読んでいると、川上さんほど「食べているときの人間の感情の微妙な動き」を文章にできる人、そして、食事の場面にこだわっている人はいないよなあ、と。
それにしても、川上さんは大好きなんですねえ、おでん屋さん。
ただ、この作品に関しては、正直、僕はあまり好きにはなれなかったんですよね。
登場人物のなかに、感情移入できる人が全然いなかったし、あまり意味のないゲスト的な登場人物が多かったし。
のゆりは「被害者」ではあるけれど、叔父さんと2人で温泉に行ったり、資格を取りにいった学校で知り合った大学生と映画に行ってみたり(いずれも、「関係」はしていないようですが)、男としては、「自分の妻がこんなにふわふわ、ふらふらしていたら、そりゃあ、やってられないだろうなあ」と考えてしまうんですよ。僕の妻も、のゆりと同年代ですし。
のゆりというのは、いかにも川上さんらしい(あるいは、川上さんみたいな)キャラクターなのですが、この小説って、のゆりも卓哉も卓哉の浮気相手たちも、みんな「さらりとした人たち」すぎて、現実感に乏しい気もします。
もちろん、「どんなに危機的な状況にある2人でも、四六時中キリキリとしているわけじゃなくて、そういう感情のゆれの合間に『日常』があるのだ」ということをキチンと描いているのはすごいな、とも思うのですけど。
(この家は、卓ちゃんの「ここ」じゃないんだ)
のゆりは急に疲れた気分になって、押入れの前にぺたりと座りこんだ。結婚って、いったい何なんだろう。唐突に思う。自分が卓哉のことを今でも好きなのかどうか、のゆりにはもう判断がつかなかった。
(好きっていう気持ちは、ふつうにしていたら、わからない)
(事が起こったときの腹がたつ、とか、くやしい、とかいう、裏側からの気持ちで、はじめてその人を好きなのかどうかが、わかる)
テーマが「夫婦の危機」の話だけに、『センセイの鞄』に比べると、主人公たちと同世代・既婚の僕にとっては、やや批判的に読んでしまったところはあるのですが、「川上さんらしい恋愛小説」です。
ところで、のゆりはたぶん「同性から嫌われるタイプ」でしょうし、女性はこの小説に共感できるのか、ちょっと訊いてみたいところです。