琥珀色の戯言

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『はてな』はサービス業失格


ネット規制よりもユーザーによる制裁を(池田信夫 blog)

↑のエントリや、このエントリのブックマークをあたってみると、池田先生の主張全般には賛同しがたいです。しかしながら、池田先生の抗議に対する「はてな」の対応を読んで、僕は驚いてしまいました。
はてな」を運営している人たちは、自分たちが「サービス業」であるという認識が決定的に欠けているのではないか、と。
以下は池田先生のblogからの引用です。

私も「死ねばいいのに」というタグを執拗につけてくるはてなユーザーがいるので、はてなに抗議したところ、「本来の意味から申しますと好ましい表現ではありませんが、実際には、慣用句的に使われている場合も多くみられる」ので何の対応もしないという回答が来た。しかしそのユーザーはその後も同様のコメントを繰り返し、12/8には
こういう自称「厳しい」連中には激しい殺意が沸く。
と私を殺害する意図を表明するコメントがあったので、近藤淳也社長に抗議し、「せめてdiggのような評価システムで非常識なコメントを隠すなど改善できないのか」と質問したところ、

弊社による削除要請等ではなく、ユーザーの力をお借りして悪質な情報が多くの目に触れないような対策ができないか、といったシステム的な対応についても検討を始めております。ご指摘いただいたユーザーのブックマークでは、その他にも侮辱的な表現が執拗に書き込まれている様子もあり、こうした執拗な行為に対して何らかの対策ができないか、という事も検討しています。

という返事があった。しかしその後、はてなスタッフから「削除対象とは判断いたしませんでした」という通告があった。システムを設計している伊藤直也氏は、

「死ねばいいのに」って書いてるユーザーのアカウントを削除するとか、「これはひどい」というタグを付けられなくするとか、あるいはそういうタグやコメントを見られなくするとか、システム的な対応をしてしまうと、対応全部がアドホック的になっていっちゃう。そうなると、多分はてなブックマークが本来持っている価値まで全部失われてしまうと思うんですよね。

と開き直っている。

 この部分が「事実」であるとすれば、僕は「はてな」のスタッフというのは、「自分たちが掲げるWEBの理想」に悪酔いしてしまっているんじゃないかと思う。
 「死ねばいいのに」って、ごく一般的な社会常識として、「慣用句的に使われている場合が多くみられる」言葉なのですか?

 ちなみに、「はてなキーワード」では、「死ねばいいのに」という言葉は、こんなふうに説明されています。

発祥
ダウンタウン浜田雅功がバラエティ『ダウンタウンDX』の視聴者投稿コーナー『視聴者は見た!』で多用し、急速に広まった言葉。ギャグ。浜田が視聴者のハガキを読みあげる際、最後に「死ねばいいのに」と付け加える。

元々は同コーナーで浜田ネタのハガキを松本が読みあげた際に使ったもの。つまり相方相手だから許されたデンジャラスなフレーズ。「浜田のネタを松本が使うのはどうだろう」などという批判は松本が不憫。

また、一部サブカル過激派からは「伊集院光がラジオで昔から使っていたフレーズ」との指摘もある。

さらに、一部ラジオマニアからは「宮川賢がラジオで伊集院光よりも前から使っていた」との指摘もある。

なるほど、ダウンタウンの浜田さんが使ってたんですね。
いや、気心知れた友達同士での飲み会の席で「死ねばいいのに」ってやるのは別に構わないと思うよ僕も。
でも、僕は『ダウンタウンDX』の熱心な視聴者でもないし、僕の周りにはこんな言葉を常用している人はいません。自分が「常識」を代表しているとは思わないけれど、少なくとも30代半ば男の交友関係で頻出する言葉じゃないし、見ず知らずの他人に投げつける言葉じゃないだろう、と。池田先生が不快になるのは自然なことなんじゃない?
「本来の意味から申しますと好ましい表現ではありません」と運営側が認識していながらも、それに対して「慣用句的に使われている場合が多いから」ということで「警告すら発しない」というのは、やっぱりヘンだと思います。
(ちなみに僕は「これはひどい」には、あんまり抵抗感はないです(僕はつけませんが)。個々のエントリへの好悪が出るのはしょうがないし、「ひどい」って書きたくなるエントリは確かにある。でも、エントリに対する批判的なコメントは許容されても、それを書いている人間への人格攻撃というのは、明らかに「誹謗中傷」の範疇です)。

そして、「弊社による削除要請等ではなく、ユーザーの力をお借りして悪質な情報が多くの目に触れないような対策ができないか、といったシステム的な対応についても検討を始めております」って、これはユーザーによる「自浄作用」を信じているようで、実際は、「単なる責任逃れ」なんじゃないの?「そういうめんどくさいことには、かかわりたくない」のかもしれないけど、今現在「死ねばいいのに」って書かれている人は、どれだけ待てばいいんですか?
そもそも、頑張ってエントリを書いて発信している人よりも、誹謗中傷コメントを書きなぐっているユーザーのほうを応援しているんじゃないのか「はてな」は。
↑のエントリに対するこんなブックマークコメントたちを見て(こういうのを読み慣れている僕にとっては、これはまだそんなに酷いコメントばかりでもないんだけど)、ネット初心者が「はてなユーザー」になりたがると思う?
どうみても、「『はてな』がインターネットの理想を語れば語るほど、一般的なネットユーザーは引いていく」だけなのでは。
いや、「冒険」したい人もいると思うよ確かに。でも、大部分のネットユーザーは、「迷惑な人が跳梁跋扈する自由な世界よりも、最低限の秩序と安全が保たれている世界」を望んでいるんじゃない?

あと、ひとつ気になったのが、この

「死ねばいいのに」って書いてるユーザーのアカウントを削除するとか、「これはひどい」というタグを付けられなくするとか、あるいはそういうタグやコメントを見られなくするとか、システム的な対応をしてしまうと、対応全部がアドホック的になっていっちゃう。そうなると、多分はてなブックマークが本来持っている価値まで全部失われてしまうと思うんですよね。

という文章。
相手が池田先生だから、なのでしょうけど、自社の事業に対する問い合わせに、こんなわかりにくい言葉でしか対応しない会社って、あんまりなんじゃない? 「相手が池田先生だから、特別な表現をしている」のだとしたら、それはそれで不公平だし。
だいたいこれ、読んですぐに意味わかりますか?
僕は「アドホック的」って言葉を調べましたよしょうがないから。

僕なりにこの文章を翻訳してみました。

一度「死ねばいいのに」「これはひどい」のような過激な表現に対して、『はてな』としての公的な制限をやりはじめると、「じゃあこの言葉は」「これもダメなんじゃないか」と次から次にいろんな言葉に対応しなければならなくなって、その対応が場当たり的なものになってしまう(そうなると管理する側も手に負えないし、NGワードのガイドラインもどんどんブレていく)。

まあ、ここまではわかるんですよ。でも、そのことによって、

そうなると、多分はてなブックマークが本来持っている価値まで全部失われてしまうと思うんですよね。

という結論が出されるのがなぜなのか、僕にはよくわからない。
むしろ、「めんどくさいから、コストがかかるからやらない(できない)」って言えばいいのに。
「死ねばいいのに」というタグを使えなくすることによって「本来持っている価値が全部失われてしまう」サービスなんて、もともと価値は無いんじゃないの?
そういう「遠慮なく誹謗中傷を書く人々」を野放しにすることによる機会損失のほうが、はるかに「はてなブックマークの価値」を落としていると思いますよ。


長くなってしまったので、最後にひとつ、中国の古典を紹介して終わりにします。

春秋時代の鄭の政治家・子産という人のエピソードです。

子産はその死に際に、自分の後継者に任命した子大叔という人に対して、「寛容な態度で治めるのは徳を持った人間だけが可能です。次善は厳しい態度で治めるやり方です。あなたは次善の方法で治めるのが良いでしょう。例えば火は恐ろしいですが、その恐ろしさゆえに人が近づいてこないので、かえって人の死は少ないのです。しかし水は柔らかなので人は慣れ親しんで近寄り、洪水により大勢の人が死にます。これと同じように寛容な態度で治めるのは難しいのです。」と遺言した。
(ちなみに、この言葉を理解するためには、春秋時代の中国では、黄河の洪水による死者が非常に多かったという史実を知っておく必要があるでしょう)

子産の死後、子大叔は子産の遺言に逆らって寛容な態度で臨んだが、鄭の領内には、盗賊が多くなり、治安が乱れた。子大叔は反省して犯罪に対して厳しい態度で臨んだところ、ようやく国は安定した。

はてな」が理想を追いたい気持ちはわかるんですよね。子大叔だって、尊敬する子産の言葉であっても「自分にだって子産と同じことができるはず」と思ったのだろうし。

でも、そろそろ気づいてもいい頃なんじゃない?



付記:ブックマークコメントで教えていただいたのですが、「アドホック的」という言葉は『はてな』の伊藤直也さんから池田先生への直接の返信にあったものではなく、
http://ascii.jp/elem/000/000/119/119192/index-3.html
↑の『ASCII』の記事からの引用のようです。
ユーザーへのメールでの返信にではなく、専門誌でのインタビュー記事中に使われるのであれば、それほどの違和感はない言葉のような気がします。
誤解を招くような引用をしてしまい、すみませんでした。

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