琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

人に好かれる笑いの技術 ☆☆☆☆


人に好かれる笑いの技術 (アスキー新書 046)

人に好かれる笑いの技術 (アスキー新書 046)

内容紹介
人づきあいは、笑いが9割!?
人気放送作家が教える、気遣い上手な会話術。

SMAP×SMAP』『王様のブランチ』などで活躍中の売れっ子放送作家が教える、ウケて好かれる会話の技術。
人気タレントたちは、いかに笑いを生み出しているか?人にかわいがられるコミュニケーション力を、どうやって身につけるか?人間関係を円滑に運ぶ「ウケるノウハウ」「その場の空気を読み、和らげるテクニック」満載!

著者について
1954年埼玉県熊谷市生まれ。東洋大学在学中に放送作家を志して欽ちゃん(萩本欽一)に師事する。
5年間の居候を経てデビュー。以後、『欽ドン! 良い子悪い子普通の子』『欽ちゃん&香取慎吾全日本仮装大賞』『笑っていいとも!』『オレたちひょうきん族』『SMAP×SMAP』『王様のブランチ』『はなまるカフェ』『コサキンでワァオ!』など、多くの人気テレビ、ラジオ番組を構成している。
長寿番組『ごきげんよう』のサイコロトークの発案者として、業界では名高い。

 僕が「ツルマさん」の名前をはじめて知ったのは、『ラジアメ』こと、『ラジオはアメリカン』という番組の構成作家としてでした。実際は裏方である「作家」というより、番組内でのパーソナリティとの掛け合いが印象に残っているのですけど。一昔前の深夜番組って、DJと放送作家の絡みって、けっこうよくあったんですよね。

 初代パーソナリティの大橋照子さんは、御主人の転勤でサンフランシスコに住むことになるまでの4年間の任期で、『ラジアメ』の土台をしっかり築いてくれました。
 大橋さんからバトンを受け取ったのが、2代目パーソナリティの斉藤洋美さん。とにかく大橋さんと比べて、びっくりするくらい”おぼつかないパーソナリティ”。この一言に尽きました。中村肇ディレクターと一緒に「どうしようか」と頭を抱え込んだことを今でもハッキリ覚えています。大橋さんの安定感とは180度違いましたが、この”おぼつかなさ”がリスナーのハートをつかんだのです。わからないものですね。
「頼りないなぁ、これは俺達がなんとかしなきゃ! この番組なくなっちゃう」と思わせたのか、リスナーが一致団結。「パーソナリティが面白くないのなら、俺達が面白いハガキを書かないと! 面白いカセットを送らないと!」。大橋さんの時と比べて、ハガキのレベルが急上昇しました。おぼつかなさと頼りなさこそ、彼女の魅力だったのでしょう。周りを動かず「かわいらしさ」を持ち合わせていたわけです。結局、斉藤さんは8年もパーソナリティを続けることになりました。彼女には、リスナーの母性本能(?)をくすぐる何かがあったのです。
「自分の能力が足りないな」、そう思った時、周りに手伝ってもらえる「かわいいおぼつかなさ」。そういったものも時には必要なのでしょう。

 僕も斉藤洋美さんがパーソナリティの時代に『ラジアメ』をずっと聴いていたので、このエピソードには納得させられてしまいました。
 でも、こういう「おぼつかなさ」っていうのはとても微妙なもので、本人が意識しすぎてしまうと「あざとい感じ」になるんですよね。
 そういう意味では、斉藤洋美さんの場合は、本当に「絶妙なおぼつかなさ」だったのかもしれません。
 あの番組内で「笑い声担当」だったツルマさんが、今やこうして「大物放送作家」として『SMAP×SMAP』や『ごきげんよう』を作っている、というのは、なんだかすごく感慨深いものですね。斉藤洋美さんは、いま、どうしているんだろう……

 この本で紹介されている、鶴間さんの「発想法」も、なかなか興味深いものがありました。
 僕は正直、「なーんだ、みんなどこかで聞いたことがあるような『発想術』ばっかりだな」と思いながら最初は読んでしまいました。
 でも、あらためて考えてみると、当代きっての人気放送作家も「アイディアが泉のように自然に湧き出てくる天才」でも、「何か特別な発想法を持っている」わけなくて、「ありきたりのようにも思える『アイディアを出すためのトレーニング』を地道にずっと続けてきた人」なんですよね。
 つまり、「天才」じゃなくても、トレーニングを続けることによって、クリエイティブな仕事をやることは可能なのだ、ということなのでしょう。
 もっとも、この「続けること」が、いちばん難しいことなのかもしれませんが。

 私は、まだ駆け出しの放送作家の頃、クイズ番組の問題を作っていました。
「来週の月曜日までに、問題を10個持ってきてください」
 と、言われて毎週提出していました。普通だと、「ああ、10問か大変だなあ」と思ってしまいます。当然のことだと思います。私も最初はそうでした。それで、家に帰って問題を考えます。
 1問、2問、3問くらいは自分でも「こりゃ、いい問題だなぁ」というのが浮かびます。4問、5問、6問と徐々にアイデアの出が悪くなっていきます。そこからさらに、アイデアにキレがなくなって、7、8、9、10問とヘロヘロの状態で、やっと完了となるのです。これは経験則ですが、たいていは10個のアイデアを出した場合、最初の3〜4個は良いのですが、残りの6〜7個は安易なものとなっているのです。そして、翌週の月曜日に、クイズ問題を提出します。案の定、採用される問題は3〜4個。正直なもので、頑張った分しか、採用されませんでした。
 そこで、この経験則をどう打破すればいいのか、私は考えました。思いついたのは「ヘタな鉄砲も数撃ちゃ当たる」作戦。自分はまだ未熟な放送作家なのです。つまり、「いい問題」を10個出したい場合には、最低20個いや30個は問題を作る必要があるということです。
「問題を30問!」。口で言ったり、頭で思うのは簡単ですが、いざ30問考えるとなるととても大変です。しかし、この考えを思いついたからには、実行あるのみ。自分が天才でない「ヘタな鉄砲撃ち」とわかっているからこそ、コツコツとやるしかないんです。「腹筋を毎日10回やりなさい」と言われていたのに、自分では30回やっていたようなもので、結果、これを続けることによって、未熟な自分を鍛えることができたのです。今思うと、クイズを一生懸命30問作っていたことが、放送作家の素地を作ることになったと思います。

 実は、これと同じような話を『広告コピーってこう書くんだ!読本』という本のなかで、日本を代表するコピーライターである谷山雅計さんも書かれています(こちらの本もオススメです)。
 どんな天才でも、いきなり最高のコピーを思いつくのは至難のわざであり、とにかく、いろんなアイディアを出して、選択の幅を広げるというのが大事なのです。いきなり「最高のものを思いつこう!」ということで自分のハードルを上げてしまうと、結局は「最高のものが思いつかないから、何もアイディアが出なかった」ということになりがちですし。

 僕は「欽ちゃんの『笑い』はもうすっかり時代遅れ」だと思い込んでいました。
 でも、この本を読んで、現在でも「家族で観られるテレビバラエティ」を支えているのは、鶴間さんのような「欽ちゃんチルドレン」なのだということをあらためて思い知らされました(ちなみに、『踊る大捜査線』の脚本家の君塚良一さんも萩本欽一さんも大学卒業後萩本欽一さんに弟子入りされています)。


広告コピーってこう書くんだ!読本

広告コピーってこう書くんだ!読本

アクセスカウンター