琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

はたらきたい。 ☆☆☆☆☆


はたらきたい。

はたらきたい。

 僕は卒業した大学にそのまま残って、あとは「医局人事」ってやつに従っていろんな職場を渡り歩いてきたので(正確には、研究生生活を挟んでいるのですが)、一般的な「就職活動」ってやったことがないんですよね。自分を「値踏み」されるのは辛いという話を耳にする一方で、他人事としては、「いろんな有名企業を見て回れるなんて面白そうだなあ」なんて能天気に考えてもいたわけです。
 この『はたらきたい。』という本、一見、学生向けの就職指南書のようなイメージを受けるのですが、おそらく僕が就職活動中の学生だったら、「そういう概念的な話よりも、『お辞儀の角度』のほうを教えてくれ」ってやっぱり言いたくなるのではないかと思います。この本には「そんなこと、採用する側にとっては、大きな問題じゃないんだよ」って書いてありますし、僕も今は「新人を受け入れる側」ですから、そうだよな、って感じるんですけどね。
 サブタイトルに「ほぼ日の就職論」とあるように、この本は、「働くこと」についての思索の書であり、「これから働こうという人」よりも、「いま働いていて、『働く意味』をちょっと見失っている人」や「新人を採用する立場にある人」向けなのかもしれません。
 ただ、僕にとっては、この本の全部が面白いわけじゃなくて、実際に「いいなあ」と感じたのは、全5章のうちの2つだったんですけどね。逆に、「僕にあまり響かなかった章のほうが参考になった人」もたくさんいるはずです。

この本に収録されている、糸井重里さんとしりあがり寿さんの対談の一部を御紹介します。

糸井重里土屋耕一さんっていうコピーライターの元祖みたいな人がいるんですけど、このかたは資生堂のアルバイト出身なんですね。


しりあがり寿へえ。


糸井:で、資生堂みたいな大きな会社って、お酒とか、ビール券とか、お歳暮やお中元が届きますよね。だから、当時は、仕事終わりにデザイナーさんたちがみんなでビール飲んで、何かつまむ、みたいなことがよくあったそうなんです。そういうときに、土屋さんはデパートの地下街でおつまみを買ってくるっていうおつかいをよくやっていたんですけど、そこで買ってくるおつまみがいちいちセンスがいいので、それでバイトから社員になったっていうんです。


寿:あー、なるほど(笑)。


糸井:まぁ、もちろんそれだけじゃないでしょうけど、「気の利いたおつまみを買ってくる」というセンスは、何ていうか、妙に信用できるじゃないですか。


寿:そうですよね。


糸井:ね。だって、俺もそういう子と働きたいって思うもの。


寿:それができる子は何でもできそうだっていう。


糸井:そうそう。そういう気持ちになりますよね。


寿:そういう意味でいうと、うちで重用するのはやっぱり「幹事のできる人」ですね。


糸井:あー、それもわかるなぁ。


寿:今年の花見も、新人に幹事をやらせようと思ってるんですけど、幹事のできる人は、いいですね。能力やスキルがどうこういう以前に。


糸井:完璧じゃなくてもいいんだよね。失敗したときの、現場でのフォローとかね。ああ、わかるなぁ、それ。

僕も「ああ、わかるなぁ」と頷いてしまいました。
採用する側からすれば「ずば抜けて能力がある人」ならともかく(まあ、そんな人は滅多にいないわけで)、多くの場合は、「自分が一緒に働きたいと思える人」を選ぶということのようです。そんなの「当たり前」のことのはずなのですが、選ばれる側だった時代には、そういう「相手の目線」というのがよくわからないまま、「教科書どおりのアピール」をしてしまいがち。
まあ、実際のところは、「おつまみ選びのセンス」とか「幹事ができる」なんていうのは、しばらく一緒に働いてみないと、一度きりの面接の場では伝わらないタイプの魅力のような気もしますけど。

あと、この本には、『ほぼ日』の過去十年のアーカイブから選ばれたという、「働くこと」に関しての「百のことば」が収められています。
この言葉たちがまた、すばらしいんですよ本当に。これだけでも本の値段分くらいの価値があるんじゃないかと思うくらいです。

 以前、ある雑誌で、社長さんや、それなりの肩書きのある人に百冊の本を挙げてもらう、というインタビューをやったんです。そこでいちばん多く挙がったのが「デカルト」でした。なかでも『方法序説』。原理的なものや、普遍的なものって、古ければ古いほど「使える」んですよ。

                                    永江朗(書評家)

 ものごとは、頑張って好きになっていくのが、本当なのではないでしょうか。むりやり好きになったわけですから、努力が入っているわけですから、もう、好きに決まっているわけですよ。

                                    みうらじゅんイラストレーター)

 「いま、働いていること」に疲れている僕に。
 そして、「将来、働かなければならないこと」が不安なあなたに、ぜひオススメしたい本。

 最後に、この本で読んだ、吉本隆明さんのこの言葉を紹介しておきます。

 十年間、毎日ずうっとやって、もしそれでモノにならなかったら、俺の首やるよ。

                                      吉本隆明(詩人・思想家)

参考リンク:「採用のプロ」が語る、新卒者の面接で聞いておきたい「たったひとつの質問」(活字中毒R。)

アクセスカウンター