琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

ザ・マジックアワー ☆☆☆☆


『ザ・マジックアワー』公式サイト

あらすじ: 暗黒界の顔役・天塩幸之助(西田敏行)の愛人・高千穂マリ(深津絵里)に手を出してしまった手下の備後登(妻夫木聡)は、命の代償に伝説の殺し屋“デラ富樫”を探し出すハメに。期限の5日が迫ってもデラを見つけ出せない備後は無名の三流役者・村田大樹(佐藤浩市)を雇い、殺し屋に仕立てあげるという苦肉の策を思いつくが……。(シネマトゥデイ

 昨日の15時半からの回を観てきました。
 シネコンの300席の部屋で、客入りは7〜8割。公開されてだいぶ日が経っていることと、日曜日とはいえ時間帯を考えると、かなり盛況。
 昨日は『インディ・ジョーンズ』と雨模様のため、映画館は近年稀に見るくらいの大混雑でした。こんなに映画館に人がいたのは、『パイレーツ・オブ・カリビアン〜ワールド・エンド』公開時以来じゃないかな。

 観終えての感想ですが、とてもよくできているコメディ映画だと思います。佐藤浩市さん、深津絵里さん、西田敏行さん、妻夫木聡さん、綾瀬はるかさんなどの豪華出演者に、脇を固める役者さんたちも勿体ないほどの名優揃い。三谷さんのカリスマっぷりが伝わってきます。
 佐藤浩市さんのユーモアあふれる演技には、周囲で観ていたおばさんたちは大ウケでしたし、伏線の張り方もちょっと泣けるシーンを混ぜているストーリーも、「やっぱり三谷幸喜は上手いなあ」と。三谷さんの映画好き、映画人好きもすごく伝わってきますしね。とりあえず「観てよかった!」と思える映画であることは間違いありません。

 ただ、観終えて、「なんとなく出来すぎていて物足りない感じ」も少し残ったんですよね。
 三谷さんのこういう映画だから、きっと、誰かが悲惨な死にかたをしたり、決定的に不幸になったり、観客が不快になるようなどんでん返しがあったりはしないんだろうな、と思いながら観ていて、結局「うまくおさまってしまう」というのは、やっぱり、ほんの少し「物足りない」。
 とはいえ、殺伐とした映画にすればいいってものじゃないでしょうし(でも、個人的には一度そういうのを撮ってみてもらいたい気もします。そういう脚本だって書ける人だと思うから)、正直なところ、僕は少し「三谷節」に飽きてきてしまったのかもしれません。いや「飽きていても面白い作品」なんだけど、「面白いなあ、すごいなあ」じゃなくて、「さすがだなあ、三谷さんらしいなあ」で評価してしまっているところがあるように思われます。
 三谷幸喜ファンである僕でさえこんな感じなのだから、思い入れのない人たちにとっては、「マンネリ」だと言われてもしょうがないかな、と。作品の質が下がったわけじゃなくて、「美味しいものでも、ずっと食べてたら飽きる」のですよね。役者さんたちもみんな上手いんだけど、西田敏行さんなんて、「いかにも西田敏行がやりそうな役と演技」なんですよね。そもそも、佐藤浩市さん以外は、「いかにもこの役者さんがやりそうな役」ばっかりなんだよなあ。そのあたりは、あらかじめ出演者が決まっている状態で、三谷さんが「アテ書き」しているからなのかもしれませんが……
 三谷さんにとって、この『ザ・マジックアワー』は、前作『THE 有頂天ホテル』が大当たりしてしまったがために、「成功して当然の作品」になってしまい、「文部省推薦+興行的な成功」を義務付けられてしまった近年の宮崎駿さんのように「自由度」が下がってしまった作品なのではないかと。

 ちなみにこの『ザ・マジックアワー』の興行収入は、22日までの16日間で約20億円。『有頂天ホテル』の最終的な興行収入が60億円だったそうですが、そこまでいくのはちょっと厳しそうです。群像劇としての完成度は『有頂天ホテル』のほうだと思うのですが、コメディとしての面白さは『マジックアワー』のほうが上ではないかと僕は考えています。いい映画なんですよ本当に。

 ちょっと物足りないところも書いてしまいましたが、少なくとも、これほど「愉しく観られる日本映画」は滅多にないと思いますし、そんなに大がかりな特殊効果もないのですが、「映画館の雰囲気」で観ていただきたい映画です。三谷さんが監督自らあそこまでのプロモーションをされているのにも頭が下がりますし、日本映画が「低予算+原作つき」あるいは、「低予算+説教臭い」という作品ばかりにならないように、もっとヒットしてもらいたい作品です。

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