琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

「その場から走り去っていった元同僚」の話


 こんな話を聞いた。

 3人が配属されていた部署で、そのうちの1人が鬱で休職してしまった。
 もともと3人でもかなり限界に近い仕事量だったのだが、人員補充もなかったため、残された2人は本当にキツイ状態で仕事をしていたそうだ。

 先日、その2人のうちの1人が転勤することになったのだが、異動直前のある日、彼は道端で偶然、休職中の元同僚を見かけた。
 彼は、どうしようかと迷いつつ、結局、「お世話になったことは間違いないし、転勤の挨拶くらいはキチンとしておくべきだろう」と考え、休職した元同僚に声をかけようと近づいていった。
 その次の瞬間、彼が目にしたのは、「自分の顔を見たとたんに顔色を変え、走ってその場から去っていく」同僚の姿だった。
 彼は寂しそうに、「なにも逃げなくでもねえ……」と呟きながらジョッキを傾け、周囲で聞いていた人々は、「そりゃ酷いよね……あの人が休職したから、あんなに仕事がキツくなってたのに……」と彼の哀しみに寄り添った。

 僕もその場にいて、それはつらいね……とか言いながら飲んでいたのだが、その話の「いたたまれなさ」を考えると、すぐに家に帰って布団をかぶってしまいたい気分になった。実際は何食わぬ顔で飲み続けていたのだけれども。

 彼は元同僚を「そっとしておいてあげる」べきだったのか?
 元同僚は、「その場にとどまって別れのあいさつ(とはいっても、そういう用事だとは知らなかったのだろうけど)を交わすべきだったのか?
 元同僚が「心の病」でなければ、どうだったのだろう?

 誰が悪いわけでもないのに、誰もが救われない。
 この世の中には、そんなことがたくさんあるし、それはたぶん、他人事ではないのだ。

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