こんな話を聞いた。
3人が配属されていた部署で、そのうちの1人が鬱で休職してしまった。
もともと3人でもかなり限界に近い仕事量だったのだが、人員補充もなかったため、残された2人は本当にキツイ状態で仕事をしていたそうだ。
先日、その2人のうちの1人が転勤することになったのだが、異動直前のある日、彼は道端で偶然、休職中の元同僚を見かけた。
彼は、どうしようかと迷いつつ、結局、「お世話になったことは間違いないし、転勤の挨拶くらいはキチンとしておくべきだろう」と考え、休職した元同僚に声をかけようと近づいていった。
その次の瞬間、彼が目にしたのは、「自分の顔を見たとたんに顔色を変え、走ってその場から去っていく」同僚の姿だった。
彼は寂しそうに、「なにも逃げなくでもねえ……」と呟きながらジョッキを傾け、周囲で聞いていた人々は、「そりゃ酷いよね……あの人が休職したから、あんなに仕事がキツくなってたのに……」と彼の哀しみに寄り添った。
僕もその場にいて、それはつらいね……とか言いながら飲んでいたのだが、その話の「いたたまれなさ」を考えると、すぐに家に帰って布団をかぶってしまいたい気分になった。実際は何食わぬ顔で飲み続けていたのだけれども。
彼は元同僚を「そっとしておいてあげる」べきだったのか?
元同僚は、「その場にとどまって別れのあいさつ(とはいっても、そういう用事だとは知らなかったのだろうけど)を交わすべきだったのか?
元同僚が「心の病」でなければ、どうだったのだろう?
誰が悪いわけでもないのに、誰もが救われない。
この世の中には、そんなことがたくさんあるし、それはたぶん、他人事ではないのだ。