琥珀色の戯言

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ガリレオの苦悩 ☆☆☆☆


ガリレオの苦悩

ガリレオの苦悩

内容紹介
「悪魔の手」と名乗る者から、警察と湯川に挑戦状が届く。事故に見せかけて殺人を犯しているという彼に、天才科学者・湯川が立ち向かう。

探偵ガリレオ』シリーズ久々の新作。
とはいえ、僕がこのシリーズを最初に手にとったのは、福山雅治主演でドラマ化されるのが決まってからだったので、そんなに「間隔が空いた」という印象はなく、むしろ、「(セールス的に)絶妙なタイミングでの2冊同時刊行だなあ」と感心してしまったくらいです。
この『ガリレオの苦悩』を読むと、『ガリレオ』シリーズの最大の魅力は科学的な蘊蓄を駆使しての「専門知識がない人間には絶対に解けないし、(作者も)解かせる気がない」トリックであることを再確認させられます。『容疑者Xの献身』は、シリーズのなかではきわめて「異質」な作品だったのだなあ、と。
しかしながら、この『ガリレオの苦悩』に収められている5作品は、「男社会で生きる女刑事」内海薫の登場もあって、かなり「人間ドラマ」としての懐が深くなっているように感じました。
湯川も苦悩するエピソードがありますし、この短編集の「犯人」たちの「苦悩」には、「僕も同じ立場だったら、同じ選択をするかもしれない……」と共感できるところがたくさんあって。
ただ、それはある意味『ガリレオ』らしくなくなってきているとも言えます。
あと、映像化されたものを観ていると、やっぱり、「文章による科学的トリックの説明」というのはかなりわかりにくいなあ、と感じます。『ガリレオ』シリーズというのは、かなり「映像向き」の小説なのかもしれません。

ところで、この『ガリレオの苦悩』という短編集には、登場人物を通じて、「科学を生業とする人間の業」みたいなものが、かなり色濃く描かれています。東野さんは科学者ではないはずなのに、なんでこんなに「わかっている」のだろう?と考えずにはいられないくらいに。

「奈美恵、優秀な研究者に必要な資質とは何だと思う?」
 彼女は少し考えてから、「真面目さ、とか?」と答えた。
「それも必要かもしれんが、真面目であればいいというものでもない。時には不真面目さが、大発見に繋がることもある。研究者に必要な資質とは、純粋さだ。何物にも影響を受けず、どんな色にも染まらない真っ白な心こそが、研究者には要求される。これは簡単なようで、じつはとても難しい。なぜなら研究とは、、石を少しずつ積んでいくような作業だからだ。努力する研究者は目標に向かって、より高く積み上げようとする。当然、自分が積み上げてきたものには自信を持っている。それは間違っていないと確信している。だがそれが命取りになる場合もあるんだ。最初に置いた石は本当にその位置でよかったのか、いやそれ以前に石ではなかったのではないか――そういう疑いが生じた時、積み上げてきたものを壊してしまうということが、なかなか出来ない。これまでの功績に縛られているからだ。純粋であるということは辛いことなんだ」幸正は握りしめた左手を小さく振りながらいった。

この『ガリレオ』シリーズの主人公は、湯川学ではなくて、「科学にとりつかれた、名もなき人間たち」であるような気がしてなりません。

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