- 作者: 朽木ゆり子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/09/15
- メディア: 新書
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内容紹介
日本でもゴッホと並ぶ人気を持つ十七世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール。その作品は世界中でわずか三十数点である。その数の少なさ故に、欧米各都市の美術館に散在するフェルメール全作品を訪ねる至福の旅が成立する。しかもフェルメールは、年齢・性別を超えて広く受け入れられる魅力をたたえながら、一方で贋作騒動、盗難劇、ナチスの略奪の過去など、知的好奇心を強くそそる背景を持つ。『盗まれたフェルメール』の著者でニューヨーク在住のジャーナリストが、全点踏破の野望を抱いて旅に出る。
参考リンク(1):「フェルメール展〜光の天才画家とデルフトの巨匠たち〜」(東京都美術館・公式サイト)
参考リンク(2):フェルメール展を堪能(ゼント☆ウヨウヨ(2008/11/7))
「日本でもゴッホと並ぶ人気」っていうのはちょっと過大評価なんじゃないかとは思いますが、現在東京都美術館で「フェルメール展」が開催されていることもあり、ちょっとしたブームになっているフェルメール。
僕にとっては、「とりあえず名前は知っていて、作品を写真で何点かは観たことがある画家」でしかなかったのですが、この「フェルメール展」には、ぜひ行ってみたいと思っていたんですよね。まあ、ちょっと現状では12月14日までに東京には行けそうにないのですけど(それにしても、会期終了間際はさらに混雑しそうですね)。
そんななか、参考リンク(2)のエントリをみて、「いいなあ」と思い、以前買ったまま読まずに積んでいたこの本をあらためて読んでみました(このエントリ、フェルメールの絵の画像も紹介されていて、おすすめです)。
この『フェルメール全点踏破の旅』のいちばんの良さは、「絵の写真が綺麗」だということでしょう。
もちろん、画集を買えばもっと大きな絵の写真は手に入れられるのですが、値段や入手しやすさ、持ち運びやすさなどを考えると、「ちょっとフェルメールが気になる」という人には、このくらいがちょうどいいのではないかと。
そして、語られている薀蓄も、「読むのがめんどくさくなる」ほど冗長ではないけれど、「ひとつの絵から、こんなにたくさんの寓意を読み取ろうとしている人たちがいるのだ」と感心してしまうくらいには丁寧です。
よくある「描かれた順番に沿っての絵の紹介」ではなく、朽木さんが「フェルメール全点制覇」を目指して旅をしながら、そこで出会ったフェルメールの絵について述べていく、というスタイルなので、自分も一緒に「フェルメール・コンプリート」の旅をしているような気分になれますし。
フェルメールに関する小林頼子さんの著書のことがしきりに言及されていて、もっと「研究」したい人は、小林さんの著書のほうがいいんじゃないか?とは、ちょっと感じてしまいましたけど。
ところが、フェルメールの絵の大部分は宗教画ではない。この事実は私にとって、またおそらく大部分の日本人にとって、フェルメールの絵を近づきやすいものにしている大きな要因だろう。手紙を読んだり、人と話したりという、室内での日常的な風景を描いた彼の絵の世界は、私たちが現在暮らしている世界とあまり離れていないように感じられ、親近感と同時に時間的なギャップを超えた普遍的な美を感じ取ることができる。同時に、こういった平易な設定が、見る側の想像力を強くかき立てるという側面もある。《真珠の耳飾りの少女》のようなシンプルな絵が熱心に解読され、小説や映画が生み出されるのはそんな理由からではないか。
しかし、もう一歩踏み込んでいうならば、大部分が宗教的な絵ではないはずなのに、フェルメールの絵にはある種の崇高さがある。荘厳な光の中に佇んでいる女性たちには、聖母とは別種の浄化作用が備わっているように見える。フェルメールの絵の前に立つと、私たちは電子メールや携帯電話に囲まれた煩雑きわまりない生活を一瞬忘れ、静寂と安らぎに包まれる。フェルメールの絵を見ると心癒されると感じる人も少なくないだろう。そういった側面が、フェルメールの人気に大きく寄与しているはずだ。
僕がフェルメールの絵のなかでいちばん好きなのは『小路』。
昔から、「写真みたいな絵、それも風景画」に惹かれるんですよね、なぜか。ワイエスも好きだし。
フェルメールという画家、その作品に興味がある人にとっては、値段以上の価値はある本だと思います(税込み1050円)。
「流行りモノ」として買っても、後悔はしないんじゃないかと。
良い機会ですので、行ける方はぜひ、「フェルメール展」にも足を運んでみてください(って、行ってない人間が言うのもなんですが……)