琥珀色の戯言

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イルカ ☆☆☆


イルカ (文春文庫)

イルカ (文春文庫)

■内容紹介■
女性作家キミコは、海辺の町で出会った少女から自らの妊娠を告げられる。ばなな文学の新たな一歩をしるす、祈りに満ちた長篇小説

恋人と初めて結ばれたあと、東京を離れ、傷ついた女性たちが集う海辺の寺へと向かった小説家キミコ。外の世界から切り離された、忙しくも静かな生活。そしてその後訪れた別荘で、キミコは自分が妊娠していることを、思いがけない人物から告げられる。

よしもとばななさんの「妊娠小説」。
妻の妊娠・出産、そして、育児を観ながら、「女性にとっての妊娠・出産とは?」みたいなことを考えることが多かったので、この本を手にとってみたのです。
でも、この本を読んでも、やっぱりよくわからないや。
そもそも、ここに書かれている「妊娠・出産」への感情(というか、「人間関係」に対する考え方そのもの)が、僕の妻を含む多くの人にはあてはまらない、「そりゃあ、あなたが『よしもとばなな』だからさ」と言いたくなるようなもののように思われますし。

 レストランで隣の席の家族連れが父親の誕生日を祝って乾杯しているのを見たことがある。
 化粧の濃い娘は二十代後半、その兄が多分飲食業で三十代半ばくらい、元外資系秘書風のお母さんは六十代、多分会社役員のお父さんもそのくらいで、とても裕福そうに見えた。みなが「おめでとう」「元気で今日をむかえられてよかった」いい言葉を口にしているのに、そこには空しさしかなかった。プレゼントも形だけのものだった。ばか笑いも一度も起きなかった。レストランだからそれがあたりまえだけれど、きっと家のダイニングに座っていても、この人たちは大声で笑わない、そう思った。この家族は今まで一度も体をはって家族を受け入れたことがないんだな、というのが会話のはしばしに感じられた。命のやりとりがなかったことをお金がなんとか補ってくれたのだな、ということが伝わってきた。
 こんな淋しい家族がこの世にはたくさんたくさんあるのだろうか? と私は不思議に思った。
 そんなにも他人を受け入れがたい人たちでも、やはり淋しくて家族を作ってしまう、そのこともとても不思議に思えた。

 こんな調子の文章が前半は延々と続くのですよ、この小説。
 はっきり言って、僕はかなり読んでいて不愉快でした。なんだこの中学生みたいな幼稚で押しつけがましいものの見方は。
「体をはって家族を受け入れたことがない」のは、お前のほうじゃないのか……
 とにかく僕は、ムカムカイライラしながら読んでいたんですよね。
 そもそも、この主人公の女性がやっていることは、「場当たり的なセックスと妊娠」でしかないわけで、そういう「才能とお金があるからふわふわ生きていける人」が、こんなふうに「普通に良い家族を演じようとする人々」を笑うって、ものすごく失礼なんじゃないかと。

 あとがきで、よしもとさん自身が「この作品は、けっして完成度が高いとはいえないけれども、何か次につながる大事なものを秘めているような気がする」ということを書かれているのですが、終盤、出産前後の描写は、「ああ、女性にとっての出産はこんな感じなのかなあ」ということが伝わってきます。
 正直、僕にとっては、「読むのがキツイ本」でした。ばななさんの『デッドエンドの思い出』は素晴らしかったのに。
 これ、女性にとっては「共感できる小説」なのでしょうか、Amazonのレビューを読んでいると、「まだ結婚も妊娠も未経験」という女性には、けっこう好評だったようなのですが……

デッドエンドの思い出 (文春文庫)

デッドエンドの思い出 (文春文庫)

 

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