琥珀色の戯言

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チャイルド44 ☆☆☆☆☆


チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 上巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

チャイルド44 下巻 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
スターリン体制下のソ連。国家保安省の敏腕捜査官レオ・デミドフは、あるスパイ容疑者の拘束に成功する。だが、この機に乗じた狡猾な副官の計略にはまり、妻ともども片田舎の民警へと追放される。そこで発見された惨殺体の状況は、かつて彼が事故と遺族を説得した少年の遺体に酷似していた…。ソ連に実在した大量殺人犯に着想を得て、世界を震撼させた超新星の鮮烈なデビュー作。

まずひとこと、これは本当に「凄い作品」です。

何ヶ月か前に「リドリー・スコット監督で映画化!」というオビに惹かれ、書店で平積みにされているのを購入。
その後、『このミス』の海外部門で1位になったりもして、これは読まなくては!と、ずっと思っていたのです。
翻訳モノ、舞台がスターリン体制下のロシアということで、なんとなく読み始められなかったのですが、読み始めてみると逆に読み終えるのがつらかった。
この『チャイルド44』、「内容紹介」を読むと、「たくさんの子供の命を奪った、猟奇殺人犯の逮捕劇」であるようなイメージを受けるのですが、実際はそういう「謎解き」の部分はほとんど印象に残りませんでした。いや、作品としてはむしろ、主人公・レオが謎解きをはじめるに至るまでの上巻のほうが面白いと感じたくらいです。
「この理想社会では、『まともな人間』が、犯罪など犯さない」という建前を遵守する国家で行われる「犯罪そのものがなかったことにするための努力」の数々と、自分のささやかな贅沢と安全を守るために(それを「国を守る」ことにすり替えて)無実の人たちをも犠牲にする人たち。「誰かを告発しなければ、自分が告発される」社会。
そういう「スターリン体制下のソ連の人たちの内面」の描写がすごく秀逸なんですよこの作品は。
そして、「いい人」の中にも含まれる悪意や、「悪い人」も常に悪いことばかりをするわけではない、という心の動きの重層性を冷徹なまでにとらえた人間描写の確かさは、あの『カラマーゾフの兄弟』を思い出してしまうくらいでした(ちょっと褒めすぎ?)。
最後のほうの展開は、あまりにスムースに収束させているような印象もあったのですが、読んでいる側も「そろそろ勘弁してやれよ……」と言いたくなるような容赦のないストーリーも素晴らしい!

僕は翻訳モノって苦手なのですけど、この作品を読むと、「やっぱり、『世界』で評価されるものは違うなあ……」と感心せずにはいられません。骨太で妥協が感じられない傑作でした。

ところで、これって絶対1本の映画にするには、ちょっと内容が詰まりすぎていますよね。2本に分けて公開するのだろうか?

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