あらすじ:1955年、貧しい人々を助けようと志す若き医師のチェ・ゲバラ(ベニチオ・デル・トロ)は、放浪中のメキシコでフィデル・カストロ(デミアン・ビチル)と運命的な出会いを果たす。キューバの革命を画策するカストロに共感したチェ・ゲバラは、すぐにゲリラ戦の指揮を執るようになる。(シネマトゥデイ)
日曜日のレイトショーで鑑賞。200人あまり収容のシアターに、観客は僕ひとりだけでした。
僕はチェ・ゲバラという人に昔からものすごく興味があるので、この映画の公開を楽しみにしていました。
世間的には「Tシャツによく描かれている人」として知られてはいるものの、いったいどういうことをした人かはあまり認知されていないようなのですが、なんというか、この人の生涯って、「マンガやエンタメ小説だって、あまりにできすぎててそんなストーリーは書かないんじゃないか?」と言いたくなるくらいドラマチックなんですよ。
『BRUTUS』の2009年1月1日・15日合併号で、チェ・ゲバラに関する本の項があり、そのなかで、こんなエピソードが紹介されていました。
1956年、彼ら反乱軍82名は8人乗りの小さなヨット「グランマ号」に乗り込み、キューバへ向けて出発した。
上陸後、シエラ・マエストラ山中の苛酷な環境で壮絶な戦闘を続けながら、彼らは徐々にその勢力を増していった。「その時の彼は、兵士としても医者としてもめざましい活躍を見せました。負傷した同志を助けながら、同時に、負傷した敵兵も手当てしていました」(フィデル・カストロ『チェ・ゲバラの記憶』より)。
戦いの中で、チェはその忍耐力と冷静な判断力、裏表のない誠実な人柄から、反乱軍の指揮官として強い人望を集めるようになる。彼は常に危険な任務を進んで引き受け、傷ついた同志のためにともに残る男だった。
僕は「チェ・ゲバラってカッコいいなあ!」と思ったのと同時に(ジョン・レノンもハイスクール時代に「世界で一番カッコいいのはエルネスト・チェ・ゲバラだ」と言っていたらしいです)、この偉大な革命家の生きざまに「疑問」も感じていたんですよね。
「負傷した敵兵も手当てする」っていうのは美談のように思えるけど、負傷させたのは自分たちじゃないのか?」
「そもそも、『医者なのに、敵とはいえ人を殺すこと』に対して、矛盾を感じていなかったのか?」
この映画では、ゲリラ戦中のチェ・ゲバラは喘息が持病にもかかわらず、ゴホゴホと咳き込みながら葉巻を手放しません。
「それ絶対喘息に悪いだろ!」と全力でツッコミたくもなるのですが、医者であるゲバラはそんなこと百も承知で葉巻を手放さなかったわけで、「強い男」「革命に対してまっすぐな人」というマッチョなイメージのチェ・ゲバラというのは、実は、いろんな矛盾を抱えながら生きていたのではないかな、と僕は考えずにはいられませんでした。
この映画の中で描かれるゲリラ戦でのチェ・ゲバラは、観客にとっては、必ずしも「ヒーロー」ではないというか、「なんでこの人に、みんなついて戦ってこられたのだろう?」と思うほど繊細で孤独な人物に見えました。
↑の『BRUTUS』の記事のような「予備知識」がないと、「なぜチェ・ゲバラはリーダーとして信頼されたのか?」を理解するのは難しかったのではないかなあ。
チェ・ゲバラは勇猛果敢ではないどころか、ずっと喘息で咳き込んでばかりでつらそうだし、行軍中の休憩時間も、他の兵士たちと少し離れてひとりで本を読んでいます。そして、兵士たちにも「まず読み書きを覚えろ」と命じるのです。
そういう姿をみると、この人は、「この人は、革命家というより、政治家なんじゃないかな」と思えるのですけど、キューバ革命後の彼の行動は、僕のそんな印象とは正反対のものでした。
もしチェ・ゲバラがキューバ革命のあと、キューバの政治家として生涯を終えれば、たぶん、彼は「伝説」にはならなかったはずです。
正直、この『チェ 28歳の革命』だけでは、「ゲリラ戦のリアルな描写」と「キューバ革命成功までの経緯がダイジェストとしてまとめられた作品」でしかないんですよね。
予備知識がない人にとっては(いや、ある程度知っているつもりの僕にとっても、この映画を観ただけでは)、「なぜ、チェ・ゲバラがこんなにカリスマとして世界中で愛されているのか?」が、ほとんど理解できないと思うのです。
この映画では、1964年にチェ・ゲバラが国連で行った演説のシーンがモノクロで挿入されるのですが、おそらく、ソダーバーグ監督も、「ゲリラ戦の映像だけでは、チェ・ゲバラのカリスマ性が伝わらない」と考えたから、そういうつくりにしたのではないかなあ。
この映画の最終的な「評価」は、『39歳 別れの手紙』を観てみないと、難しいような気がします。
チェ・ゲバラが「カリスマ」となったのは、この「キューバ革命後の彼の選択」のためなので、この『28歳の革命』は、「赤壁の戦いのシーンがない『レッドクリフ Part1』みたいなものなのでしょう。
「真の革命家には、愛がなくてはならない、民衆への愛、正義への愛、真実への愛……」
「戦況を変えるのは、兵士の数ではなく、たったひとりの無名の兵士の献身的な活躍である」
これらの言葉を聴きながら、僕は「でも、いまのあまりに一方的なハイテク戦争では、ゲバラの理念は通用しないだろうな……」とも感じてしまいました。ゲバラは、「ひとりの人間の力」を信じすぎていた人のなのかもしれません。
とりあえず、僕は『39歳 別れの手紙』も見ます。とういか、それを見届けないと、この映画を観た意味がないと思うから。
でも、この『28歳の革命』は、チェ・ゲバラに思い入れがない人にとって、ちょっと観るのがつらい(というか、面白くない)映画なんじゃないかな、とも感じました。
チェ・ゲバラ(Wikipedia)
せめて、↑くらいはあらかじめ読んでおかないと、この映画の流れに「ついていく」ことも難しいのではないかと思います。
あと、↓の映画も事前に鑑賞しておくことをオススメしておきます。
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そういえば、手塚治虫の『ブラック・ジャック』のなかに、ブラック・ジャックの昔の友人が「革命家」になっていた、という話がありましたよね。彼はブラック・ジャックに「僕は地球をなおす医者になったんだ!」と言うのです。
今思い出すと、手塚さんは、チェ・ゲバラをリアルタイムで見ていたんだよなあ。
「漫画で世の中を治す医者」になった男は、「革命で世界を治そうとした医者」を、どんなふうに見ていたのかな。